「これなんてどうですか?空さん♪」

「ぇえ!?ミミちゃん、派手よ…;」

クリスマスイヴ。久しぶりに帰国したミミに連れられ、

ヒカリ達選ばれし子供女子軍は、とあるショッピングモールのアクセサリー店にいた。



<クリスマスの力>



「…京さん、どうしたんですか?」

賑やかな音楽が流れる店内。

普段ならミミに続いて盛り上がる京が、なにやら真剣な表情でアクセサリーを眺めていた。

「『クリスマスに彼と ペアアクセコーナー』?」

空は、京の頭上にある、鮮やかな文字を読み上げた。

「(でもなんで京ちゃんがこのコーナーに…?)」

「空さん!!お願いがあります!!」

「え?」

すると京は、途端に空の方に向き直り、その手を握って真顔で言った。

「告白って、どうやってすれば良いんですか!?」

数秒の間、沈黙。と言うか、驚愕。

「もしかして京さん、賢君に…?」

最初に口を開いたのはヒカリ。だてに京の親友ではない。

「ぇえ!?なんで知ってるの!?」

「だって京さん、わかりやすいし…」

「ぇええ!?じゃあ、もしかしてもう賢君も気付いちゃってるかも知れないーー!?」

「まあ、京ちゃん落ち着いて、ね?」

空とミミが、パニクりモードに入った京を落ち着けようとしているとき、

ふとヒカリの目に金髪の少年が飛び込んできた。

ヒカリは3人娘のに気付かれないようにそっと移動し、愛する彼氏に会いに行った。


「どうしたの?こんなところで」

3人娘のいる通路から、棚を2つ隔てた通路。

右にはヘアピン、左にはカチューシャと明らかに髪留め売場である。

「それがさ、アレ」

タケルは、自分の肩越しに指をさした。

指さす方向は、通路の向こう側にある、棚。

店と店の間の、ショッピングモールの通路に面している。

「あ」

見れば、男3人衆が。

「偶然を装って通りかかってね」

「『装って』?」

「そう。今夜のパーティー用に何か面白い物はないかって、斜め向かいの雑貨屋に来る名目。
でも本当は、ここに彼女のためのクリスマスプレゼントを買うため」

なるほど。そう思いつつ、ヒカリはそっと3人衆のいる棚に近づいた。

スピーカーの位置の所為か、さっきまでいた場所に比べて、いくらか静かで、
顔は棚の影だが、ハッキリと声は聞こえた。

「迷ってないで、買え!」

「…でも…」

声の主は、大輔と賢。

「あとで後悔するぞ?」

「うん…」

「大輔君、そんなせかさなくても」

光子郎の、まるで喧嘩を仲裁するかのような声が聞こえた。

「でも…クリスマスは今日だし…」

「正確には、イヴですけどね。って、そう意味ではなくて、
本当にこのネックレスで良いか、と言う意味で…」

賢が今手に持っているのは、ショッキングピンクのネックレス。

棚の隙間からのぞき見たヒカリは、思わず

「賢君の好きな人って、意外に派手なのかな…?」

と、小声でタケルに苦笑いした。

「あ、この中で選ぶと、たぶんこれが1番似合うかと…」

「意外ですね。賢君なら、もっと青系の色が似合う彼女が好みかと思いました」

「そうだな…確かに。どんな人なんだ?」

「え…?//」

大輔と光子郎。賢からは見えないところにいるタケルとヒカリも、賢の答えに耳を傾けた。

「その…み…み…」

「ミミさん?」

「い、いえ!その……京、さん、です…///」

「京ぉぉおお!?」

大輔、声が大きい。

ヒカリ達が思ったときには既に遅く、先程の場所から当の本人がやってきた。

「今、大輔の声が聞こえ気がしたんだけど」

パニック状態を脱した京と、空とミミが、会計の済んでないアクセサリーを片手にヒカリの前に現れた。

「ヒカリちゃん。どこ行ってたのかと思ったら、タケル君見つけてたのね♪」

間一髪、薄い壁で仕切られただけの隣の洋服屋に移動した男3人衆は、息1つしないくらい固まったまま盗み聞きをしていた。

「私達会計行くけど、ヒカリちゃんは?」

「あ、はい。…でも、ミミさんは良いんですか?」

「え?」

「ペアアクセ、買ってないみたいですけど…」

目ざとく見つけ、鋭く発言。

ヒカリの声に、一瞬ミミは顔を曇らせた。

「だって…光子郎君…」

うつむいたかと思えば、瞬間顔を上げ、今度は愚痴モードに入った。

「告白の時以来、私達キスしてないのよ!?」

爆弾発言。…少なくとも、影で聞いている光子郎は真っ赤になった。

「ちょっとミミちゃん…」

「ねえ空さん!普通だったらもっと、もっともっともーっと、会えない分だけしますよね!?」

「そう言われても…」

困る空に詰め寄るミミ。

そんな様子を見たヒカリは、ごく自然に口を開いた。

「あの…ミミさん」

「なあに?」

「キスとかって、回数の問題じゃないと思うんです。
例えば、毎回毎回、ファーストキスみたいな感じなんじゃないかと」

「大事なのは、気持ちがこもっているかどうかですよ」

言い終えると、自分の言ったことを急に理解したのか、ヒカリは赤く染まっていった。

「そうよね。ありがとうヒカリちゃん。私、大切なこと忘れてたみたい」

空と京が赤くなる中、ミミは素直にお礼を言うと、

「じゃあ、私も買ってこよーうっと♪」

ペアアクセコーナーへと飛んで行った。

「私も、行くね」

「うん。じゃあ、あとでね。みなさんも」

タケルは、買い物に戻るヒカリ達と別れ、3歩ほど隣の店に移動した。


「みんな、行きましたよ」

全部聞いていたのは承知で、タケルは言った。

言いたいことがあるけど、言うのはどうかと思う大輔。

結局京に何をあげ、どう伝えるか悩む賢。

そして、真っ赤な顔でうつむいている、光子郎。

「…あの、みなさん」

「何?賢君」

「想いを伝える、というのは、どうすれば良いんでしょうか?」

素直で切実な気持ち。本当に真剣なんだな、とタケルは思った。

「どうって…今みたいに、自分に素直になればいいだけだよ。ね?光子郎さん」

「そうですね。伝える瞬間は、頭の中真っ白になりますから」

「あれ?そう言えば光子郎さんの告白の時って…」

先程の会話を聞けば、キスしたのは告白の時だけだそうで。

そして、その1回の瞬間は…8月に目撃したアレだろう。

「あああああ!!!と、とにかく今は急ぎましょう!早く買わないと間に合わなくなります!!」

慌てて、光子郎は店を飛び出した。


8月のあの日。

せっかく帰国したのだから、と、今日と同じく買い物に行こう思ったミミは、

夏休みなのに家にいるなんてと言って、光子郎を呼びだした。

ある店では洋服を試着しては感想を求め、曖昧に答えれば「ハッキリ言って」と怒られる始末。

またある店ではアクセサリーを食い入るように見つめ、「欲しいんですか?」と聞けば、
なぜか「べーつにー」と言って店を出てしまう。

そんな、光子郎にとっては振り回された買い物だった。

そして帰り道。約束の場所まであと少しの時のこと。

光子郎は、両手に紙袋を持ち、内心で「重いなあ」などと呟きつつ、ミミの隣を歩いていた。

「今日は、朝早くから買い物付き合ってくれて、ありがとう♪」

「いえいえ…」

「その上荷物まで持ってもらっちゃって♪」

「いえいえ…」

「まるで、彼氏みたいねv」

「…いえいえ」

「やっぱり、否定、するんだ」

「…って、え?」

「気付かなかった?光子郎君、いっつもパソコンばっかだったもんね。
私ねー、こーしろー君のこと、ずーっとまえから、だーいす」

「き」の音は、聞こえなかった。

口の中で、言ったつもりでも、その唇は、入り口をふさがれていた。

「ぎりぎり…間に合い…ました」

「こーしろー…くん…?///」

突然の出来事と、至近距離の所為で、ミミの顔は火照った。

「ミミさん。僕は、ミミさんのことが好きです。その、純真無垢な所が、天真爛漫な所が ずっとずっと、大好き、でした。
…僕と、付き合って、くれませんか…?」


「う、う、う、…こーしろーの…バカぁ」

「み、ミミさん;///」

泣きそうな顔をしたかと思えば、ミミは光子郎に抱きついた。

「あたしが…先に言おうとしてたのに…」

「すみません…遮ってしまって…でも、やはり、男としては」

「だったらどーしてもっと早く言ってくれなかったのよぉ…ばかあ」

お互いずっと好きだったのに。

「…申し訳、ありませんでした…」

「もーぅ…ばかばかばかばかばかあ…………でも、大好き」

「…ありがとうございます。僕もです、ミミさん」

怒る言葉とは逆に、笑顔のミミ。

丁寧な言葉とは逆に、抱きしめる光子郎。

「付き合っても、敬語で、いるつもり?」

「はい。おそらくは…あ、でも、改善する努力は」

「いいわよ。別に。慣れてるし。それに、敬語じゃないこーしろー君なんて、
お魚のいない、海みたいなものだわ」

「はあ…」

呆れるような不意を付かれたような、呆然とした言葉。


8月の想い出はここまでだった。

「あ、ヒカリちゃーん!」

「タケルくーん!」

光子郎は想い出すのをやめ、今自分のいる場所を確認した。

ヤマトのバントの、ライブ会場である。

「これでみんな揃ったわね」

「良いんですか?空さん。客席にいて」

「うん。今行っても忙しいと思うから」

「そうですね。じゃあ、僕達も後で行こう」

「そうだね」

「しかし、さすがヤマトさん。客も多いなあ〜」

わいわいがやがや。受験のため活動を停止していたヤマト達は、この日クリスマス限定でライブを行うことになっていた。

「あの…ミミさん」

「ん?なあに?」

「ちょっと、いいですか?」


寒さはさすがに12月。

そんな屋外に、光子郎はミミを連れてきた。

「で?なあに?早くしないと始まっちゃうわよ」

光子郎が足を止めると、その背中に向かってミミは言った。

「あの…ダメですか?」

「?」

「せっかくの帰国ですし、ライブじゃなくて、ぼくと、一緒にいてもらっては、ダメですか?」

遠くで、音楽が鳴っている。

街から聞こえるクリスマスソングか、ライブ会場の音かなど、ミミにとってはどうでもいいことだった。

「…ダメなわけ、ないじゃない」

ミミは、光子郎の背中に、抱きついた。



その頃、ライブ会場では、熱い声援を受けながら、ヤマトがステージで歌っていた。

「(当たり前のこと…なんだよね)」

ステージの上が、遠い。

別に大きな会場というわけではない。

ただ、その距離は、とてつもなく広かった。

空は、それを仕方ないと思っていたが、どうにもやるせない気持ちだった。

「空さん」

音楽の鳴る中、隣の席からヒカリが声をかけた。

「どうしたの?」

「行きましょう」

「え?どこに?」

ヒカリは、空の手を掴んで歩き出した。

京達もそれに気付いたが、タケルが先頭を歩き何かを言っているのしかわからなかった。


そして5分後。

ステージでライトを浴びていたヤマトは、空が席を外したことに気が付いていた。

気にしつつも、それでここに来てくれたお客全員に迷惑をかけてしまってはと思い、

そんな素振りを見せずに歌を歌っていた。

そしてその歌が終了した時。

「あ…」

明かりが消えた。

「停電か…?」

暗い中、メンバーと顔を合わせていると、聞き慣れた声がマイクを通した。

「みなさま、メリークリスマス」

「メリークリスマス」

「タケル…ヒカリちゃん?」

暗くて姿は見えないが、声は確かに弟たち。

客席がざわめく中、ヤマトは近づく人の気配を感じた。

「兄さん、今のうち」

「…やっぱりお前か。なんのつもりだ?」

「急がないと。そんなに時間ないし」

「はあ?」

「大丈夫。僕達が繋いどくから」

訳のわからないヤマトの腕を掴み、タケルは舞台袖へと引っ張った。

「おい…だからなんの」

「楽屋で、空さんが待ってるよ」


楽屋。そこには、数分前から空が壁にもたれて立っていた。

ステージの音声のみ、設置されたスピーカーから聞こえる。

ただ、今はざわめきの声のみ。

「(なにが起きてるのかしら…?)」

「空っ!!!」

勢いよく、ドアが開いた。

一瞬、その勢いに圧倒され、空は固まったが、ヤマトの顔を見ると、自然と顔がほころんだ。

「ヤマト…」

「空っ!!」

ヤマトは、空を見ると、咄嗟に、抱きしめた。

「きゃっ///」

「ごめんな空…。今日みたいな日に、一緒にいられなくて…」

「そんな…良いのよ。終わってからは、パーティーで一緒の予定だったし…」

「でも、そこだと、…2人きりじゃ、ないだろ?」

スピーカーから、声が聞こえる。

『…そして、去年の今日、付き合い始めた方も、いるかと思います』

『そんな方は、このクリスマスをまた祝えることと、1周年の記念日として、

大切な時間を過ごして下さい。2人で』

「…タケルに言われて、来たのか?」

「うん…。丁度、去年の今日でしょ?って、言われちゃって」

「ライブが終わったら、即パーティー。
世界中の子供達と祝う予定だったから…終わった頃には、明日になってるな」

「そう。だから、今のうちに、今日のうちに、って」

短い時間でも。

一緒に、いてほしいから。

そんな、弟の気遣いが、わかった気がした。



会場では、ヤマトが今どこにいるかなど、まるで知らないお客達が、

謎の天使の声達に、耳を傾けている。

「また、去年はまだ出会っていなかった方」

「今日までの間に、気持ちが生まれた、気が付いた方」

京と賢が、ぴくり、と動いた。

隣同士に立つ2人は、一瞬だけ、手と手が触れた。

「そんな方達は、ぜひ、今日この日に」

触れたことで、反射的に、顔を見合わせた、お互い。

「クリスマスの力を借りて、伝えてみて下さい」

言うなら、今。

「好きです、と」


「「好きです!!」」


同時、だった。

「言えばきっとその瞬間」

「2つの片想いが、1つになりますよ」

マイクから聞こえる声。

その声が、理解できずに頭の中を巡っている。

「あ…あ…あ……」

パニックモードに入りかけた京を見て、賢は、思い出した物をポケットから出した。

「これを…」

小さな袋。京は、それを受け取ると、自分も鞄から袋を出した。

「はい…」

ふるえる手でそれを差し出し、賢も、受け取った。

急に、明かりがつき、音楽が鳴り出した。

戻ってきたヤマトは、ステージからその光景を目にした。

袋を開ける2人。

中には、お互いが選んだアクセサリーが。

恥ずかしそうにしながらも、2人とも、そのアクセサリーを付け始めた。

そんな幸せな光景を見たヤマトは、ちらりと舞台袖に目をやった。

そこには、ペアのネックレスを付けた空が、極上の笑みで手拍子を叩いていた。



「ふー。無事成功、だね」

関係者専用通路から外に出たタケルとヒカリは、

12月の寒さを涼しいと感じながら歩いていた。

「ちょっと緊張しちゃったな〜」

「そう?上手く言えてたと思うけど」

「そうかな〜」

「大丈夫だって。…それより、パーティーが楽しみだね」

みんなどんな雰囲気かな〜と笑うタケルの後ろに、ヒカリはベンチに座る影を見つけた。

「あ、見て」

タケルが見ると、ベンチに座り、光子郎の肩に頭を乗せているミミが。

ミミは、手を目の前まで挙げた。

「ふふっv」

「…またやってるんですか」

「あったりまえじゃない。大好きな彼氏に指輪をもらって、喜ばない彼女なんていないわよv」

「そう言ってもらえると、僕も嬉しいです」

光子郎は、笑顔で言った。

「それに、4ヶ月以上前にちょっと私が見てた指輪を買ってくるなんて…光子郎くんったらやるー♪」

「食い入るように見てましたからね。…もっともその時は、ペアの指輪だとは気付きませんでしたが」

「じゃあ、なんでわかったの?」

「店は覚えてましたから、行ってみたんです。
ただ、置き場が変わっていて…。でも、ミミさんが欲しそうにしていた物で4ヶ月前からあった物となると、これしかなくて」

「さっすが光子郎君!だーいすきv」

ミミは、光子郎の首に手を回した。

光子郎も、それに返事をするかのように、ミミの肩を引き寄せた。

「…もう行こうか」

「そうだね」

これ以上見ているのは失礼だと思い、タケルとヒカリは歩き出した。


「みんな仲良くなって、良かったね」

「これもタケル君のおかげね」

「え?なんで?」

「だって、ステージでやること、タケル君が考えたんじゃない」

「そりゃまあ…そうだけど」

ただ、セリフの打ち合わせなどはなく、ちょっとしたテーマだけしか伝えてはなかったのだが。

「でも、ヒカリちゃんだって良い事言ってくれたし」

「それはタケル君に合わせて」

「いや、ステージの事だけじゃなくて、お店でのキス話」

「あ!ああ…あれ…//」

今になって思い返してみれば、やはりとんでもない事を口走った気がするヒカリ。

「やっぱり、回数より気持ち、だよねv」

そう言いながら、タケルはヒカリの顔に近づいた。

この数ヶ月の経験もあって、ヒカリは目を閉じた。

が。

「きゃっ」

いきなり足下がすくわれ、反射的にタケルにしがみつく。

そしてその瞬間、目の前にはタケルの顔が。唇には…以下省略。

「メリークリスマス♪」

悪戯っ子の笑みを浮かべたタケル。ヒカリはしがみつきながら、やっとこの状況が俗に言う「お姫様抱っこ」だと理解した。

「もう…いつも不意打ちなんだから…」

「だってヒカリちゃん、驚いた顔カワイイんだもん」

さらりと笑顔で言う、いつものタケルに、ヒカリは毎度の事ながら赤くなる。

「…たけるくんのばーか」

「なにそれ。ミミさんの真似?じゃあ、その次の言葉もあるよね?」

「……大好き」

「僕も、大好きだよ」


幸せなカップル達に、メリークリスマス。





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書き上がりました〜。ふう〜。クリスマスイヴです〜。詰め込みすぎた〜〜;;
結構この話好きなんです。02カプ総出演。そして色々とまあタケヒカが実は策略。(笑)
でも、なんだか文脈なってないし、ちょっと納得が微妙…。
アップしてからですしね、まともに修正したの;
では、…この連載物がどう続くかわかりませんがこれにて。

作成・掲載日:2006/12/24