なんでこうなったのかとか、どうすればいいのかとか、

もうずっと、そんなこと考えない気がする。

だって、いつかは消える悩みだから。



『この想いの行く先は』



「トリック・オア・トリート♪」

今日はハロウィン。とは言っても、休日でもないしそんなに大きな行事でもない。

でも、私は1軒1軒訪問をしては、ハロウィンの言葉を言っている。

「…ヒカリちゃん。えっと、ちょっと待っててね、お菓子持ってくるから」

今は空さんの家。いきなりの訪問に驚いた様子で慌ててる。…もしかして、ハロウィン自体忘れてたのかも。

「あ、いいんです。もらいに来たんじゃなくて、渡しに来たんです」

「渡しに?」

「はい。普通のアメですけど…」

首をかしげる空さんに、私はアメを少し渡した。

「ありがとう。…でも、『トリック・オア・トリート』って、『お菓子をくれなきゃいたずらするぞ』って意味よね?」

「ええそうです」

「…逆、よね?」

「はい、逆です」

返す言葉がないのか、2人とも笑顔でにらめっこをしているような状態になった。

「それでは、これで失礼しまーす」

空さんの反応も見ずに、私はダッシュで走り出した。



「ただいまー」

その後、全員の家に訪問に行って、やっと帰ってきた。

「おかえりー」

すぐに、リビングから返事が聞こえる。

部屋に入ると、ソファに寝っ転がっていた。

「ただいま。はい、お兄ちゃんにも、トリック・オア・トリート♪」

「ありがとよっ」

お兄ちゃんにも渡したし、ミミさんにもデジタルワールド経由で届けた(本当はいけないと思うんだけどね)。これで全員分OK。

残りのアメを持って、自分の部屋に入った。


入ってすぐに、電話の音が聞こえた。

「はい、八神です…遅いぞ空」

2回目くらいのコール音で、すぐにお兄ちゃんが出た。電話を待ってたのかな?

「あーはいはい。悪かった悪かった。すぐに取りに行くからよ」

またいつものように怒られてるみたい。

私は、クスリと笑って、机の椅子に座った。人の電話立ち聞きしちゃダメだし。

「ヒカリが?」

聞かないと思った矢先、急に自分の名前が聞こえてきて、ついつい耳をそばだててしまう。

「ふーん…。そういや最近元気になったよな、あいつ。…たしか、運動会の日からだったな」

なんかあったのかな?と、お兄ちゃんは言った。

理由は、誰にも言えない。

誰にも、言いたくない。

あの寒い日に偶然タケル君を見つけてからの毎日を。

楽しかった。会うだけだったり、話したり、チョコレートを食べたり…。

あれから、タケル君は何も口にしてないのかな? まだ、私の作ったチョコが、1番最後に食べたものなのかな?


色々と思いだしてたら、いつの間にかお兄ちゃんは電話を終えていたみたい。 さっき言ってたし、空さんの家になにかを取りに行ったんだと思う。

家は静かになっていて、『コンコン』とドアを叩く音が部屋に響いた。

「…テイルモン?」

『コンコン』

テイルモンだったら、もう入ってくるはず。

「お兄ちゃん…は、出かけたよね?」

『コンコン』

お母さんは買い物だし、お父さんはまだ帰ってくる時間じゃない。

「…じゃあ、だれ?」

ドアの所まで行って、そうっと開けてみる。


「あれ?」

誰もいない。

と思ったら、宙になにかが浮いていた。

「アメ?」

よく見れば、アメが2個。

アメは、そのまま私の元に飛んできて、思わず手を出したら、その中に落ちた。

私は、なにがなんだかわからずに、でも、なにかをハッキリと感じていた。

瞬間、後ろから、抱きしめ、られた。

半透明な、腕。触れてないのに伝わるあたたかさ。

“ホワイトデーの、お返し”

耳元で、囁かれた。

「タケル君!!」

反射的というか、なにかの衝動で、振り向いた。

でも、振り向いた時には、既に、その姿はなかった。

白い羽根が、無数に散らばっていて、ただそこに、彼がいた、という事だけは、確かな気持ちだった。



明らかなあったかい想いは、ずっと、この先どうなろうと、変わらないと思う。





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作成・掲載日:2006/10/31