仮に、夢みたいに遠い希望でも。

有り得ないくらい、情けない望みでも。

想い続けていれば、きっと叶う。

きっと、いつか目の前に起こる時が来る…。



『薄れない想い』



「ヒカリ!起きて!大変よ!」

「…どうしたの…テイルモン…」

テイルモンに起こされた私は、まだ眠い瞼を無理に開けながら体を起こした。

「パタモンが、見つけたのよ!」

「なにを…?」

思考回路が目覚めない。

「タケルを、生き返らせる方法!!」


瞼も頭も全身が目覚めた。


すぐにパタモンに連絡をし、方法を教えてもらった。

デジタルワールドにある、古代の遺跡から発見されたらしい。

早速その場所に行ってみると、そこにあったのは巨大な石を積み上げて作った、祭壇のような建物。

その1番高い所に丸い石が埋め込まれている。

「その石は、時を動かす力があるんだ」

パタモンが、言った。

「想いは、なによりも奇跡を呼ぶ」

テイルモンは、目を瞑った。


私達は、祈った。

お願い…タケル君を…生き返らせて…。

お願いです…また、彼と一緒にいさせて下さい…。


お願いします…!私は、タケル君と一緒にいたいの…!!


なにも起きなかった。

奇跡なんて、そう簡単には起きないのかな。

今までだって、苦労して、大変な思いをして、やっと起きた奇跡だった。

でも、今回だって、辛かった。苦しかった。

だからお願い…。奇跡、起きて…。

せめて、タケル君に会わせて下さい…。

私をまた、幸せにして下さい…。

…ううん。私だけじゃない。

みんな、みんな、みんな、悲しんだ人をみんな。

彼のことを知っている人、みんな。


「みんなを幸せにして下さい…!」


石が、光った。

『…メ…』

同時に、声が、聞こえた。

「…石の…声?」

『……テ』

石は、強く光り出した。

『ダ…』

違う。石の声じゃない。

『ヤメ…』

「誰!?」

『ダメ』

「だめ…?」

知らない。そんなこと。

『ヤメテ』

聞かない。そんなこと。

「会いたいの!私は、タケル君に会いたいの!!」

『ダメ』

「だからお願い!時を戻して!彼を、生き返らせて!!!」


石は青白く輝き、私を光で包んだ。


少ししてから、眩しくて思わず閉じた目を開くと、そこには、いた。

彼が、タケル君が、いた。

「た…タケル君!!!」

私は、彼に抱きついた。抱きつくことが、出来た。

「戻ったんだ…生き返ったんだ…奇跡…起きたんだ…!!」

嬉しくて、彼に抱きついたまま、泣きじゃくって叫んだ。

「ありがとうヒカリちゃん…そんなに、想って、くれて…」

「当たり前だよぉ…ずっと、ずっと…」

今までずっと、想ってきた…。そして、これからも…。

「ねえ、タケル君」

「なに?」

「これからは、ずっとずっと、一緒にいられるよね…?」

「僕はずっと、一緒にいるよ」

そういうとタケル君は、笑った。

…どこか哀しそうな笑顔で。

「ヒカリちゃん…」

「タケル君?」

どうしたの?と聞く前に、タケル君は一言、呟いた。


「ごめんね」



瞬間、私は、自分の部屋にいた。

見慣れた天井。見慣れた壁。

ここは、ベッドの上。

…さっきのは、ゆめ?

頭によぎった言葉に、まさか、と答えて、正気を保つ。

「ヒカリー。神社、行くぞー」

お兄ちゃんの声がした。

……神社?

まさか、初詣の時?時間が、戻ったの?

「ヒカリ?入るぞ」

お兄ちゃんが、部屋に入ってきた。

「あ、お前、俺が朝飯食ってる間、寝てたな」

…話が見えてこない。

「な〜に寝ぼけてんだよ!今日はボランティア活動で、『施設のおじいさん達と神社に行く日』だろ?」

あ…思いだした。

今日は敬老の日。だからお兄ちゃんの言った通りに、ボランティア活動があるんだ。

それで、今朝私が朝ご飯食べ終わった時にお兄ちゃんが起きてきて。

そのあと、時間を潰すのに部屋に入って、ベッドに寝転んで…。

「そっか…」

「ん?思いだしたか?」

「やっぱり、夢だったんだ…」

「…ヒカリ?」

「そうだよね。そう簡単に、奇跡なんて、見つからないよね…」

「ヒカリ?どうした?」

「ごめん、お兄ちゃん。今日、行くのやめる」

「え?」

「ちょっと、疲れちゃったから、家で休むことにしたの」

本当に、疲れた。疲れる夢だった…。

変な、夢だった…。


ゆっくりと瞬きをしたら、涙がこぼれ落ちた気がした。


「もう、疲れた・・・」





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作成日:2006/09/15
掲載日:2006/09/18