海に、舞い落ちる羽根。

たった一枚流れていく、濡れた羽根。

僕はそれを、空中に浮かべては、

闇のように真っ暗な夜の海に、おとしていた。



『堕ちてゆくものは』



天使だと言われた、2ヶ月前。

あれ以来、よく、羽根のことを考える。

両脇の、なにもない空間に、なにかある。

でも僕には、関係がないのかもしれない。

見えないのだから。

羽根があってもなくても。

この水面に映る姿は、どこをどう見ても、幽霊でしか、ない。

こうやって、羽根を空中に浮かべるのも、ポルターガイストと同じ力だろうし。

確かに、善い事をすれば、天使の力、と呼んでも良いものかもしれないけど、

でも、僕にはそうは思えない。

絶対的な聖なる力とは、明らかに違うものを感じる。

闇か、それに近い、何かなのか・・・。

少なくとも、幽霊。だとしたら、なにかこの世に未練があると思う。

たぶん、彼女の幸せ。

僕が望むものは、それしかない。みんなの、幸せしか…。

生きていてほしい。幸せでいてほしい。

それは、今僕がここにいることの全て。

この目で見ているわけではないけれど、なんとなく、感じる。

みんなが生きている、ということが。

不思議と、鼓動が伝わってくる。

そう、まるで、ジョグレスをした時みたいに。みんなと一つになってるみたいに。

僕の体からは鼓動は聞こえないけど、僕の周りの空気からは、鼓動が聞こえる。


結局僕は、どこに向かっているんだろう。

このまま、みんなのことを見守ってる…。

このまま、幸せを、祈ってる。

でもそれじゃあ、なにも変わらない気がする…。

僕がこの世から消えるには、どうすればいいんだろう。

なにも、願わなければいいのかな。

なにも、望まなければいいのかな。



真っ暗な海に、潜ってみた。

沈むわけでも、浮くわけでもない。

水と、一体になってる。

なにも考えずに、ただ漂っていれば、

そのうち、消えたりしないだろうか。

闇の中に溶け込んで…。

天使の羽根ってのも、黒く染まり、抜け落ちたりしないだろうか。

暗黒の中に、堕ちて…。


そして、嫌いな僕になる。

望んだものと反対の、憎むほど嫌いな、僕に。

そうすればきっと、今の僕は、消える。

こうやって、朝も昼も夜も、泳ぐことなく、海を漂っていれば、

きっと、いつかは、もっと透けていって、輪郭すら、なくなる。

そう。生命の始めに戻るんだ。

もう、進化はしてはいけない。する必要がない。してはいけない。

だから、戻るんだ。この世に来る、前の世界へ・・・。


そのためには、望みを、考えないようにしなければならない。

未練を、残さないために。

ヒカリちゃんの目にも、映らないために・・。



────みんなが幸せになれますように────





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作成・掲載日:2006/07/17