<君がいれば>



目が、覚めたら、

草原にいた。

どこからか風が吹いて、そよそよと、草がゆれる。

上を見上げれば、遠く、高く、綺麗な、真っ青な空。

前には、果てしなく広がる大海原。

後ろには、圧倒されそうな、切り立った崖。

そして隣には、

片想いの人。

私の大好きな、希望の、子。

その綺麗な瞳が大好きで。

そのあたたかな髪が大好きで。

そしてその、声、手、こころ、全てが、大好きな人。


ここは、どこ?

タケル君の、目を、見た。

彼は、どうしてここにいるのかを、考えているみたいだった。

どうして──。


はっきりとは覚えていないけど、確か、影に、吸い込まれた。

お兄ちゃんが、叫んでる。

テイルモンが、叫んでる。

大きな影。

闇の、固まり。

負の念の、集まり。

暗黒。

力。

吸い込まれた。


タケル君が、動いた。

拳を握って、空を見上げて。

いつもかぶってる、白い帽子のせいで、顔はよく見えないけど、

でも、遠く、決意の雰囲気が、した。

そしてタケル君は、私に手を差し出した。

私は、当たり前のように、手を握った。

私達は、その場に、座った。

全てが、自然の、この世界に。

心を、任せた。

涙が出そうな、感じがする。

この、広く、狭い、世界で。

私達はただ2人、自然に、任せていた。

時の流れに。

どうなるのかなって。

戻れない恐怖も。

なかった。


不意に、タケル君が、指さした。

その方向を見てみると、洞窟。

言ってみようか、と、目で、言われて、頷いた。

立ち上がって、洞窟の方に、歩いた。

道なき道を、歩く。

草野原。

花ひとつ無き、大地。

そこをあとにし、私達は、洞窟へと入った。


洞窟の中は、外の光で照らされ、意外に足場は明るかった。

1歩1歩、何があるのかな、と、好奇心に駆られ、2人で歩く。

冒険。

幼い頃の冒険のように。

2人で、歩く。

どこに、出るんだろうね。


やがて、真っ直ぐな道の先から、光が見えてきた。

顔を見合わせ、頷いて、手を繋いだまま、走り出した。

何があるのか。希望に満ちた光へと。


出た先は、とても綺麗な、湖だった。

絶壁に囲まれた、湖。

洞窟から湖までの道は、今度は、お花の咲いた、草原。

風が吹き、花びらが、飛ぶ。

あまりの綺麗さに、私は、思わず駆け出した。

タケル君は、それでも手を離さずに、いてくれた。


湖の近くまで行き、綺麗な水に、触ってみた。

すると、映った。

幼き日の、自分が。

そして、今現在の、みんなの姿が。

巨大な影に、立ち向かう、お兄ちゃん。

強大な闇に、爪を向ける、テイルモン。

でも、かなわない。

ダメ!逃げて!!

影は、みんなを、払いのけた。

みんなは、動かなかった。

ただ、上空を見つめ、何かを、言う。

でも、体は、動かない。

影が、みんなを、攻撃しようとした。


やめて!!!!


思わず、私とタケル君は、同時に、言った。

──声は、聞こえなかったけど。

空が、曇った。

雨が、降った。

とっさに、洞窟へと、引き返す。

雨は降る。

湖の水かさが、増す。

洞窟へとたどり着き振り返ると、そこに花はなかった。

雨風に、破れた。

湖は、迫る。

洞窟の反対側からも、水の音。

おそらく、海の水かさが、増した。

足下のへこみに、水たまりが出来る。

ふと、その近くに、一輪だけ、お花が咲いていることに気がついた。

反射的に、私は、そのお花を、掘った。

植え替えたい。

そう思って。

でも、周りは、水。泥。植えられる場所なんて、無かった。

海の水が、早くも、迫ってきた。

急に、私の体が、宙に浮いた。

何かと思えば、タケル君が、私を、抱きかかえていた。

少しでも、水から遠ざけるために。

私は、タケル君にしがみつき、一輪のお花を、守ろうと誓った。

でも、その願いもむなしく、水は、私達を飲み込んだ。

直前、お花が、光り、希望に笑った気がした。




真っ暗な、影の中。

声が、聞こえた。

小さな、可愛い、声。

この声も、大好き。

私をずっと、見守ってくれた。

助けて、くれた。

目線の下にある、綺麗な瞳。


出会った頃の、タケル君。


そのころのタケル君が、何かを言う。


「ヒカリちゃん」


私は、近づいた。

後ろから、声がした。

「ヒカリちゃん」

振り向けば、今現在のタケル君が。

「どこにも、行かないでね」

今のタケル君は、言った。

悲しげに、言った。

「行かないでね。だって、僕…僕…ヒカリちゃんのこと…」

小さなタケル君は、うつむきがちに、言った。

私は、赤くなった。

続きの言葉を、待って。

でも、タケル君は、黙ったままだった。

「ヒカリちゃんを、守るから」

私は、振り向いた。

今のタケル君の声がして。

でも、そこには、もう今のタケル君の姿はなかった。

影の中には、小さなタケル君と、赤くなった私。

ねえ。タケル君。

なにか、言って。

小さな、昔の、出会った頃の、タケル君。

幼い頃の。

今ほど力がなくて。

今より涙が多くて。

それでも、私のことを守ってくれた。

あの頃の。

タケル君。


──パリン──

どこかで、ガラスの割れるような音がした。

“ヒカリ…倒ス…”

声がした。

闇の。

頭痛が、響く。

怖い。

怖い。

怖い。

ちょん、と、服の裾が、引っ張られた。

見れば、小さなタケル君が、引っ張っていた。

大丈夫。

そう、頷くように。


鏡にひびが入ったように、景色に亀裂が入った。


別の場所。

見覚えのあるような、無いような、場所。

あの場所に、似てるけど、違う場所。

ピエモン。

目の前にいた。

あの時と、同じ。みんなの人形を、下げて。

でも、違う。

パタモンの人形がある。ヤマトさんの人形もある。

ミミさんの人形もある。…大輔君や京さん達、みんなの人形も。

「ヒカリちゃん!!!」

声がした。

小さなタケル君が、同じように小さな私を、突き飛ばした。

なにかと思った時には、私は地面に倒れ、タケル君は私の体の上で、石の固まりに背中を押されていた。

タケル君の背中からは、赤いものが、滲み出る。

当たり前。背丈ほどもある石が、落ちてきたのだから。

「タケル君!!!!?」

大丈夫なの!?返事、出来る!?

「うん…ヒカリちゃんは…大丈夫…?」

タケル君は、震える声で、言った。

瞬間、またしても上から、ピエモンが、石を落とした。

「やめて!!!」

とっさに、叫んだ。

タケル君が、素早く動いて、私を、また、庇った。

どうして?そんな体で、真っ赤になって、どうして…。

頭からも、赤き滴が、したたり落ちる。

「…まだ、立てますか?」

ピエモンが、言った。

ううん。ピエモンじゃあ、無い。

影。

私達の、幼い頃の。

闇。


タケル君は、立っていた。

「どうして…どうして…どうして…」

私は、たまらなくなって、聞いた。

「守る…から」

「え…?」

小さな、声。

「ヒカリちゃんを…守る…から」

けれど、はっきりとした、言葉。

「僕がヒカリちゃんを守るって、誓ったから!!」

大きく、声を、振り絞って、タケル君は、言った。

その時私には、なんとなく、見えた。

大きな、今のタケル君が、

「僕に…誓ったから」

と、言うのを。


タケル君のデジヴァイスから、紋章から、輝きが、現れた。

進化の光。

瞬間、また、鏡に、景色に、ひびが入った。

「タケル!!!」

空間の亀裂から現れたのは、聖なる大天使・ホーリーエンジェモン。

そして、その光に導かれるように、お兄ちゃんや、テイルモン、みんなが、来た…。

ピエモンは、元の影になり、ホーリーエンジェモンが、その剣で、消滅へといざなった。

怒濤の、終幕。

呆然とする、私。

影は、終焉を迎えた。

ただ1人、倒れた少年は、私と共に、大きな石に隠れていた。

「ヒカリーーー!!!!」

「タケルーーーー!!!!」

お兄ちゃん達の、声がする。

来ないで。

来ないで。

だって、だって、タケル君が…。

私の所為で…。

「いた!!ヒカリーーーー!!!!」

お兄ちゃん達が、来る。

タケル君、お願い…目を覚まして。

お願い…お願いだから…。

「タケルくーーーーん!!!!」

私の、紋章が、体が、光り始めた。

そして、世界中から、沢山の光が、私の中に、届いた。

お兄ちゃんから、赤いあたたかな光が。

ヤマトさんから、青い、強き光が。

そして、人間界から、綺麗で力強く、あたたかな光りが2つ。

私は、タケル君のお父さんとお母さんの光だ、と思った。

沢山、沢山、様々な色の光が、集まる。

灰色のものも。黒いものも。

でも、それも、みんなの、自分の中の、光。

それを信じるのが、希望。

そして、想い。

虹のように、様々な光が、私の体に、流れ込む。

1人1人の、あたたかく、尊い、想い。

1人の光が、やがては、灰色や黒い光をも、白く、照らすのかな。


そして、全ての光が集まり、私には、直感的にやることがわかっていた。

私の中に入った光を、タケル君の中に、移す。

人工呼吸のように。

みんなの光を。

私の光を。

タケル君の光に。

タケル君の希望に。

想いに。

力を。

生命の、源を。

届け。タケル君に。

口と口を通じ、私は、全ての光を、タケル君の中に、届けた…。


光が、タケル君に、流れていく。

そう、感じた。

目を、覚ましてほしい。

みんなの、生命の光。

願い。

望み。

想い。

私の、最愛の、望みの、想いを…。


私は、みんなの光をタケル君へと移し、唇を、離した。


──無限大な夢のあとの 何もない世の中じゃ──

タケル君は、目を、覚ました。

──愛しい 想いも負けそうになるけど──

赤きものは、その光りに包まれ、跡形もなく、消えた。

「…ヒカリ…ちゃん…?」

タケル君はそう言いながら、起きあがった。

──頼りない翼でも きっと飛べる──

「タケル君…!!!!」

私は、タケル君に、抱きついた。

「うわっ!!」

─無限大に広がる、何もない場所。それが、あの草原の世界だったのかな─

その勢いに、タケル君は、倒れそうになった。

でも、持ちこたえた。

タケル君は、元の大きさに戻っていた。

そして、私も。

私は、ただただ嬉しくて、嬉しくて、仕方がなかった。

後ろから、お兄ちゃん達が、来る。

何か、色々と、みんなそれぞれ、叫んで笑っていた。

─でも、どんな世界でも、私は負けない─

──ぎこちない翼でも きっと飛べる──

みんなと話をしながら、私は、目の前のお花に気がついた。

洞窟の中の、光と希望。

─進める。未来に。希望と光と…タケル君が、いれば─

私は、守ることが、出来たみたい…だね。

──On My Love──





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ごめんなさい。
これを読んで下さっている方に、ごめんなさい。
そして、タケル君に、ヒカリちゃんに、ピエモンに、全てに、ごめんなさい。

そう思いながら書きました…。(汗)
赤いもの…書いててグロいかな、などと思ってしまいました。
いや、どちらかというと、何か雰囲気違う、と…。
でも、そこは妥協出来なくって。
なぜならば、ピエモンが出てきてからのは、ほとんど全てが、私の人生初の妄想だからです。
ええええ。赤きものも、です。石の固まりも、です。全部、私の小2の3月下旬の妄想です。
当時やたら好きで、本物を忘れてしまうくらい、毎晩寝る時に妄想してましたっけ。やばいなコイツ…。(汗)

「──○○──」は、みなさんご存じ、名曲「Butter-Fly」より、歌詞抜粋です。(笑)
「─○○─」は、上のと続けて、小説後にヒカリが思ってること…って感じです。わかりにくいですね。(汗)
なのになぜわざわざ「Butter-Fly」を、合ってもないだろうに無理矢理入れたかというと、
ヒカリが「タケル君」と叫んだ辺りから、BGM「勝利〜善のテーマ〜」が流れて、それが終わった瞬間、
劇場版の「Butter-Fly」が流れる。と言う風に聴きながら書いていましたので。イメージです。
CD持ってる方は、聴いてみて下さい。少しは駄文が雰囲気で紛れますので。(苦笑)

イメージと言えば、前半の、無意味な自然な感じの世界。
あれは、元々小2の妄想ではなく、陰陽大戦記のサントラ2を聴きながら、
以前(おそらく発売当初…2005年の冬あたりかな)に、
妄想…イメージしたものです。(ちなみに曲は、「神流の悪夢」を中心に)
それを、色んなネタを融合させてはカットを重ねたこの駄文に当てはめて、このような構成になったと。
元々よりかんなりってか小2の初妄想以外全部違う。(笑)

このようなものですが、お付き合いいただき、ありがとうございました。

作成日:2006/07/27
掲載日:2006/08/01