目が覚めると、私は自分のお墓の目の前に倒れていた。

倒れてる。重力関係ないはずなのに。触れてる。

そんなこと思いながら起きあがったら、タケル君はもう起きていた。

『おはよう』

同じチョコレートが供えられているところを見ると、あれからまだ日にちは経ってないみたい。

『おはようって…朝じゃないでしょ〜?』

笑いながら、タケル君の隣に座る。

実体があって、あまりにも普通。

祭壇のおかげで、影の時が戻って、私達とまた一体化したみたい。

タケル君の髪は、綺麗に輝いてるし、影だってある。

たぶん今の私達は、みえる人には見えるんだと思う。

でも、きっとみんなには見えない。

そして、私達は、昇る雪も見なくなった。

みんな幸せにやっている、って思うと、不思議と気にならなくなったみたい。

だから、見ようと思えば見える。

見ると、色々な表情があった。

哀しいだけじゃない。

そんな表情が。

きっとその先で、幸せになってるんだろうなあ。

この姿になってわかったのは、気持ちが反映すること。

見える見えない、飛ぶ飛ばない、全部自由自在。

あの祭壇だって、私が望んだもの。

ううん。みんなが望んだこと。

最後に一言、言えたら良かったなあって。

だからきっと、チョコレートお供えして、現れたんじゃないのかな。

そんな話を、タケル君としていた。

言ってることは非日常極まりないけど、なんかすっごく、日常的な幸せだった。


『しかしさ、僕たちって、触れることが出来たんだもんね。初めっから』

『え?初めっから?この姿じゃなくて?』

『だって去年、ヒカリちゃんチョコ持ってきてくれる時、僕、お墓に寄りかかること出来たんだし』

今更思い出してもねーと、タケル君は笑った。

…たしかに。母の日に会った時は、普通に通り抜けちゃうと思ってたけど。

『思いこんでたからいけないんだね。
運動会の時は、触れてる感じしてたし。あれ、気のせいじゃなかったんだ』

今までの暗さもどこ吹く風。

笑い通して、今までのこと全部が笑い話みたい。

今まで、私達はどんどんすれ違っていたのかも知れない。

どんどん、信じるって事忘れて、独りよがりになってたのかも。

いまは、みんなをしんじてる。

特に、タケル君を。もう、2度とこんな事無いように、

ずーっと、しんじてる。

そんなこと考えて、ひたすら笑う。

『結局、去年と同じ気分だね』

って。



『あ、そうだ。みんなが戻ってくる前に、チョコ、食べる?』

タケル君が、ずっと持っていた紙袋を持ち上げた。

…ここだけは、いくら実体があっても、本当にチョコがなくなっちゃうわけじゃない。

『目が覚めてからずっと持っててさ、気になってたんだ〜』

『ずっとお供え、してあったんだね』

『…また来年も、こうやってもらえるのかな』

紙袋に手を入れながら、ふと、タケル君が呟いた。

『今までさ、自分で“いない人間だ”って壁作って、飛んでたけど、
これからは、みんなを見守るんじゃない、一緒に歩こうかな』

『そう…だね』

みんなと一緒に。

同じ、目線で。

特に気にすること、無かったんだね。

これからも、今まで通り、信じていれば。


『で、チョコ、食べる?』

『えっとー…』

やっぱりその話に戻っちゃうみたいで。

『タケル君は…食べるの?』

『食べないけど』

『…食べないんだ』

『だって、ヒカリちゃんの作ったチョコが、最後に食べたものにしたいし』

………。

『それってもう2度と来ないじゃん』

タケル君は、笑って言った。

『な〜んだ、わかってたんだ』

正直食べてほしくなくて、と、私も笑い返す。

『ヒカリちゃんのチョコ食べられないのは残念だけど、これからは、ヒカリちゃんがいるもんね』

『?』

どういう事?と思って振り向いた瞬間、

あまりに至近距離に顔があって、目を瞑る暇もなかった。

実体になって、絶対に触れてる感覚がある。そんな気持ちになって。

唇の熱に、全身が火照った。

『//////』

『これからずーっと、よろしくね』

にっこりと、最大級の、心からの、笑顔だった。

神様どうか、この人のこの唐突さをどうにかして…///



『ねえ、ヒカリちゃん』

『なに?//』

『僕今、とっても幸せだよ』

『私も今、とっても幸せよ』


『…ヒカリちゃんのお願いって、何?』

『なんで?急に…』

『ちょっと聞きたくてさ』

『じゃあ、一緒に言おう』



『『みんなが幸せになりますように』』



─ありがとう─




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終わりました。完結です。
本当に本当に、1年間お付き合い下さった方も、途中からお読み下さったも、
ありがとうございました!!!

作成・掲載日:2007/02/14