『ラーメン大和屋』の奥の席に座り、ヒロは怪訝そうに店内を見た。
 厨房で腕を振るうのは、頭にサングラスを載せた若い男性。そして。
「大輔!準備OK!」
 いそいそとどんぶりを並べる、AIホロ。
「……ホログラム、だよな……?」
 青くて丸っこいフォルムは、背中のリュックにいるガンマモンと似た様子で。
 質感と言うべきだろうか、ぬいぐるみのようなそれは、つまり、実体があるように見えて。
「(どう見てもどんぶり触ってるんだよなあ……)」
 頬杖をついてその光景を観察するものの、食欲をそそる香りに思考はついつい乱されていく。
「(とりあえず、食べたら聞いてみるか……?)」
 元々、クロックモンからこの辺りで妙な気配を感じたとの報告を受けての来店だ。
「(何か起きたら、ふたりにも連絡するか)」
 カウンターにスマホを置くのと同時に、店の入口ががらりと開いた。
「へいらっしゃい!!」
「おっちゃん!じゃなくて、おにーさん!6人、大丈夫?」
 威勢のいい声に負けず劣らずな威勢の良さで入ってきたのは、中学生くらいの男の子。
 厨房からどうぞどうぞと促され、ヒロの隣に、ゴーグルを首にかけた男子が座った。
「ここ、拓也兄ちゃんの行きつけ?」
「まーな!」
「でも、入口に週1で違う人が店長やるって書いてあったわよね?」
 小さめの男の子と、金髪の美少女。
「大丈夫なんだろうな?不味かったら拓也の分は土産なしだからな!」
 太めの男の子はこそこそと言うと、懐から平たい箱を取り出した。
 海外旅行のお土産なのか、パッケージは英語だ。写真から察するに、チョコレートだろうか。
 途端に、背負っていたリュックが猛烈に動き出した。
「さいきょーー!!!」
「ちょ、ガンマモン!?」
 ガンマモンはリュックから飛び出すと、箱をめがけて突進した。
「な、なんだコイツ!?」
「すみません!ホログラムで……!!」
 反射的にヒロは叫んだが、むしろその言葉のほうが引っかかったようで。
「ほろぐらむ……?」
 その場にいた全員が固まり、ガンマモンを見た。
「ていうかこれ、どう見ても……」
「「デジモン、だよな……?」」
 顔のよく似た男の子たちが口を揃えて言った。双子だろうか。
「というか、あれ、も……」
 双子の片方が、そっと厨房を指した。
「チョコレートだーーー!!!」
 青いフォルムのそれは目を輝かせ、ガンマモンと太め男子のチョコレート攻防に加わりたそうだ。
「おい、ブイモン!」
「ああ、ごめん大輔!」
 若大将に呼ばれて厨房へと戻ったそれは、確かにブイモンと呼ばれていて。
「やっぱ、デジモン?」
「こっちの世界に?」
 小さめ男子と美少女も首を傾げ、つぶやく。
「あーもう!なにモンだか知んないけど、チョコはあげないからな!」
「あ、すみません!!」
 ヒロは慌ててガンマモンを捕まえて太め男子に頭を下げた。
「ったく。……それで、おまえ、なんなんだ?」
「おれ、ガンマモン!ヒロの弟!」
「弟!!?」
「デジモンが!!?」
 ややこしくなった、とヒロは頭に手を当てた。
「もしかして、弟くんが進化した姿、とか?」
「でも、こんなスピリットあったか?」
 双子の発言に事態が更にややこしくなりそうで、ヒロは大きく手を振った。
「ち、違います!! なんか色々誤解があるような…!?」
 こっちの世界だの人から進化だの、いったい何がどうなっているのだろうか。
「聞いてみるか! おーい、アグニモン! 聞こえたら返事してくれー!!」
 ゴーグルの男子が携帯電話に向かって叫んだ。
「……え、ガラケー?」
 アグニモンという名称も気になるが、その携帯電話はガラケーと呼ぶのもはばかられるような、古風な姿だった。
「ん?がらけー?」
「あ、いえ、スマホじゃないのが珍しくて、つい」
「すまほ??」
「え…??」
 話が噛み合わないが、どうやら、連れの5人も初めて聞く単語のようで。
「すまほ……?」
「がらけーってのが、ケータイのことか?」
「じゃあ、すまほって?」
 口々に言い出し、ヒロは唖然とした。現代日本に、スマホもガラケーも知らない人がいるのだろうか。
「おにーさんは、すまほって知ってる?」
 ゴーグル男子は、厨房に問いかけた。
「ん? これだろ?」
 お兄さんはスマホを出すと、ホーム画面を見せてきた。
「え……」
 再度絶句したのは、ヒロだった。
 画面に表示されていたのは、仲間とみられる5人の姿と、そして、
『2012年8月1日』
「「2012年!!?」」
 声を上げたのは、7人全員だった。
「え、今って、2004年よね?」
「2004年!? そんなまさか……」
 ヒロは急いで自分のスマホを付けるが、見知った日付だった。
 つまり、この場には、2012年の人間と2004年の人間がいるわけで。
「いったい、何が」
「へい、おまち!!」
 つぶやいたヒロの前に、一杯のラーメンが置かれた。
「ま、いーじゃねーか!」
「そうそう! そういうこともあるって!」
 サングラスのお兄さんとブイモンは、元気に笑った。
「ええー……」
 腑に落ちなかったヒロの隣から、さっと箸が渡された。
「ま、せっかくうまそーなラーメンあるんだから、話はあとだな!」
 自分も気になることはあるだろうに、ゴーグルの男子はにこやかに言った。
「食いながら話そーぜ!」
 慌てていた気持ちがほっと温かくなるような。
 不思議な感覚になりながら、ヒロは笑った。
 時空を超えた語らいが、今、はじまる。





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デジフェス2022が最高すぎて最高すぎて。
フロっ子たちが書きたい!!大輔との絡みも!!
だって拓也の「大輔!」呼びが何度も聞けたとか最高すぎるでしょ!!??
ああでも今年はゴスゲあるからヒロくんも書きたい!!!
ということで、書きたいを詰め合わせた結果、終わりが迷子になったのでぶった切りました。
しかも結局フロっ子ほぼ書けてない!!!大好きなのに!!!
でもチョコレートつながりを入れられたので概ね満足です。
というわけで、今年の祝メモリアルはこんな奇妙な形になりました!
……メモリアルとは??って感じだけどまああるあるなので気にしない!
というわけで、祝!デジフロ20周年&23年目のメモリアルーー!!



作成・掲載日:2022/08/1