「はい、タケルくん。お誕生日おめでとう!」
タケルの家に入るなり、ヒカリは大きなコンビニ袋を差し出した。
中には、たくさんの種類のアイスが入っている。
「ありがとう。ずいぶんたくさんあるね」
「ご相伴に預かろうと思って!」
「元々それが目的のくせに」
冗談を言いながら、タケルは手で上がってと促した。
「今、パタモンも珍しく出掛けてて」
靴を脱ぎながら、ヒカリはびくりとした。
脳裏に、パタモンの言葉が反芻する。
『ヒカリ、ファイト!』
「(パタモンてば…)」
赤くなった頬を隠すように、ヒカリはしゃがんで脱いだ靴を揃えた。
「とりあえず、冷凍庫入れてくるね」
ひと足先にリビングへと向かうタケルの背を見て、ヒカリは決意を新たにした。
「今日こそ、想いを届けなきゃ…!」
燃えるヒカリだったが、その理由は半年以上も前に溯る。

あの辛い戦い以降、日常が戻った。
しかし、ヒカリにとっては確実に、以前とは異なる日々で。
目に映るものが新鮮で、今までとは違う彩りを放っていて。
これまで生活の中心には、兄である太一がいた。でも、今は違う。
籠を抜け出した小鳥のように、自らを羽ばたかせて。
それでも太陽の輝きに焦がれることもあるけれど、他の温かさにも、気が付いて。
「(タケルくんが、ずっと一緒にいてくれたら良いなあ)」
漠然と、ずっと一緒にいると感じていた思いが、願いになって。
伝えなければと、気が付いた。
そうでなければ、もしかしたら、誰かに取られてしまうかもしれないから。
「(タケルくんを取られるなんておかしな言い方。私のじゃないのに)」
それなら、自分のものにするしかない。
そこに思い至った瞬間、顔から火が出る思いで慌てた。
タケルくんはあくまでも仲間で同級生でライバルで…と言い訳してみるものの、テイルモンに呆れられる始末。
結局、紆余曲折を得て、バレンタインにハートのチョコレートを渡すことになったのだが。
『ハート型、かわいいね』
あっさりとそう言われてしまい、何も告げられない空気になってしまった。

「…頑張って作ったのになあ…」
「何か言った?」
クーラーの効いたリビングに入って、思わずつぶやいた言葉。瞬時にタケルが反応し、ヒカリは苦笑いで首を横に振った。
「なんでもない」
「そう?」
タケルは何も気にすること無く、アイスを冷凍庫にしまっていった。
「……人の気も知らないで」
もしタケルに聞こえていたら自分のセリフだと言っただろう。
何年も想いに気が付かなかったことを棚に上げて、ヒカリは拗ねるように椅子に座った。
「今日も作ればよかったかな…」
ケーキを手作りする案ももちろんあった。しかし、調理の腕でヤマトに敵うとも思えない。
「ヒカリちゃん、やっぱり多いよ、アイス」
どうすんのさ、とぼやきながら、タケルは入り切らなかったアイスを持ってテーブルについた。
「ふたりじゃ食べきれないし、誰か呼ぶ?」
「呼ばない!……でいいと思うよ?」
勢いよく言ってから、ごまかすように笑みを浮かべた。
「じゃあ…持って帰る?」
「入らないんじゃ仕方ないなあ」
「それが狙い?」
若干引き気味で言うタケルに、ヒカリはごく自然に聞こえるように努めて口を開いた。
「持って帰って、また持ってくるね」
タケルは少し驚いたような、ちょっと理解しかねるという感じだ。追い打ちをかけるように、ヒカリは更に付け加える。
「いっぱいあるし、毎日通っちゃおうかなーなんて」
さすがに気が付いただろうか。ドキドキしながらタケルの反応を待ったが。
「ヒカリちゃんが食べていいのに。太一さんやアグモンもいるんだし」
この対応である。
ヒカリは、如何に自分がこれまでタケルに対して向き合ってこなかったのかという現実に苛まれていた。
「で、でも、タケルくんの誕生日プレゼントだし」
「こうやってわざわざ来てくれただけで十分だよ。ほら、なんか特別な感じ?」
向かい合って座って、タケルはニカっと笑った。軽い冗談を言う口ぶりだ。悪い気はしないものの、意味合いが違う。
「だって、特別だもん」
子どもっぽく返してしまったが、それはヒカリの本心で。じわじわと顔が火照ってくる。
「ヒカリちゃん…」
さすがに気付いたかとヒカリは身構えた。タケルの手が伸びて、ドキリとする。
「顔赤いけど、もしかして暑い?温度下げようか」
伸ばされた手はそのままエアコンのリモコンへと向かった。
「…ううん、大丈夫…」
肩透かしというか、なんというか。ヒカリは、がっくりと苦笑いをした。
「じゃあ、アイス食べようか」
差し出されたアイスは、バニラ味とチョコ味の2つ。
「両方開けて、シェアするんでいいよね。はい、スプーン」
「…ありがとう」
受け取りながら、ヒカリはため息をついた。ひとりで空回りすぎである。
「大丈夫?」
タケルが心配そうに聞いてくる。
こういう変化には敏感なのに、肝心の原因には全く気付いてくれない。
「(やっぱりちゃんと言わなきゃダメかなあ…)」
その勇気がないといえばそのとおりなのだが、言えないときの保険も兼ねての毎日通う作戦である。後ろ向きなのかそうでないのか。
「あのさ、ヒカリちゃん…もしかしてなんだけど…」
タケルが言いにくそうに切り出した。
もう期待はしないぞと思いつつ、ヒカリはスプーンを握る手に力を込めた。
「僕に、気を遣ってる?」
予想外の質問だった。
「え、そんなことないよ?」
少しは気を遣ったほうが良いのかもしれないが、咄嗟に出た答えはまるで気遣いがなかった。
「それならいいんだけど…。最近…というか結構前からだけど、なんかよそよそしいなって思う時があるからさ」
そう見えていたのか、とヒカリは改めて自分行動を振り返った。思い当たる節も、ある。
「もし、何かあったら言ってね。嫌な所があれば直すから」
さらりと言われて、ヒカリは、気持ちが込み上げてきた。
「(こんなに自然に、私のこと考えて、優先してくれてたんだ…)」
今までどれだけ自分本位だったのか。周りを見ていなかったのか。
タケルのこと考えてこなかったのか。
「(…わかってたつもりだったけど、全然わかってなかった。これじゃあ、タケルくんも、気が付いてくれないよね)」
自分は、やっと恋を認識したというのに。とっくの昔に、愛を向けられていただなんて。
「ありがとう、タケルくん」
ヒカリは、久しぶりにタケルの目を見た。
「でも、大丈夫。ちゃんと、伝えるから」
相変わらず、まっすぐ見ると逸らそうとするけれど。
でも、ヒカリは、息を吸った。
「タケルくんのこと、好きだよ」
きっと、また、伝わらないけれど。
恋だと気付いてもらえないのかもしれないけれど。
でも、それでもいい。
また、伝えればいいんだから。
恋が愛に変わるまで。ずっとずっと。
一緒にいたいって、伝えるよ。





戻る

タケヒカ出会って19年記念日おめでとう!
こちらもtri.完結記念ということでtri.世界線のタケヒカでした。
6章見てから、「これはヒカリちゃんがタケルの方を向いたよ!!」って思ってたのでそれをどうにか形にしようと決めていたものの、
いざ書いてみたらなんかこう…なんか違う…(笑)って感じになりました。。
タケルはきっと、ヒカリちゃんがタケルの方見てたとしても気付かないだろうなというところを書きたかったんですが、
なぜかヒカリちゃん視点になった結果、こんな具合に。…頑張れヒカリちゃん…。
tri.っぽさがあまり出せなかったのも心残り。。無印と02とtri.でキャラ違うと思うのでその差が少しでも感じられたら嬉しいです。
そういえば完全tri.世界で書いたのも初めてかも…?本で書いたのは02が無い世界線設定だったし…去年までのタケヒカは…完全に忘れました…()
※2年前にもtri.ヒカリ視点で書いてたみたいですね…忘却の彼方…
だらだら書いてても仕方ないので、この辺にて!
祝・タケヒカ記念日!!

作成・掲載日:2018/08/03