変わっていくことは、嬉しいことだった。
自分が強くなっていくようで、誇らしいことだった。

『ミライ』

「もう16年、か…」
カレンダーをめくり、8月。
誰にともなくそう呟くと、パタモンの声が返ってきた。
「それって、早いってこと?」
んー、どうだろう。
「早い気もするけど、振り返れば長かったかも」
社会人2年目。生活にも慣れた。
デジモンを受け入れ始めた世界も、だいたい順調。
潰さなきゃいけない影も多いけれど、太一さんを筆頭に尽力を尽くしている。
世界はきっと、大丈夫だろう。
大丈夫に、してみせる。

マンションのドアを開けて、暑苦しい空気にため息。
蝉の声を聞きながら、公園への道をのんびりと歩く。
「パタモン、少しは飛んだら?」
「飛ぶと遅くなるからって言ったのタケルじゃん」
頭に載っけたパタモンは、眠そうに答える。
あの頃に比べて、一歩の歩幅は格段に広がった。
あの頃ですら遅かったパタモンの飛行速度が、今では止まってるかのように思える。
パタモンは、あの頃のままなのだ。

昔は、“進化”のできるデジモンが羨ましかった。
僕もあんなふうに大きくなって、みんなを守りたかった。
それでも、僕ら人間は一瞬で成長はしない。
ゆっくりゆっくり、時間を掛けて大きくなる。
そして、大きくなった今。
僕は、あの頃望んだ未来にいるのだろうか。

「ターーケルーーー」
大きな声で名前を呼ばれた。
前方で手をこれでもかと振っているのは、大輔だ。
隣には、賢と京さん。伊織もいる。
そしてもちろん、ブイモンにワームモン、ホークモンにアルマジモンの姿も。
「遅いぞーーー!!」
みんな笑って、こっちを見てる。
僕は苦笑いしながら手を上げてそれに応えた。
そして、街なかだからもっと静かに、と注意するために、走る。
久しぶりに走って、もっと運動しなきゃな、なんて思ったり。
なんだか、大人を通り越してオジサン化しているようで自己嫌悪。
子供の頃に想像していた20代前半は、もっと輝いていたのに。
「タケル、おまえ走るの遅くなったな」
到着したと同時に大輔に言われて、ムッとした。
「そりゃあ、屋台引いて体力付けてる誰かさんには負けるよ」
汗を拭いながら、そんなふうにぼやいた。
響く笑い声は、あの頃と同じ。あの頃ほど高い声じゃないけれど。
「そういえば、ヒカリちゃんは?」
このメンバーでいない、となると。
「太一さんと、あっち」
やはりか。
大輔に指されたほうを見ると、見るだけでホッとしてくるメンバーがそこに。
「タケルくーん」
「お、やっと来たか〜」
「遅いぞタケル」
ヒカリちゃんに。太一さんに。兄さんに。
みんながもう、そこに揃っていた。
「早いですね。まだ待ち合わせ時間前なのに」
「せっかくの機会だからな。待ちきれなくてよ」
アグモンの頭にぽんっと手を載せて、太一さんは笑う。
あの頃と同じ笑顔で。
この人は、今でも世界を、守ってる。

現実的手法。非現実的手法。
前者は大人の。後者は子供の力。
そんなふうに言われた時代も過ぎ、僕らは今、両方の力を使って、世界を守っている。
本当に平和な、デジモンと人間との世界を、つくるために。

「大輔ー。な〜にやってんだよ、おまえらもこっち来いよ」
太一さんの声で、大輔たちが嬉しそうに走ってくる。
変わらないな、あの顔も。
「変わらないね、みんな」
ヒカリちゃんが、そう言ってきた。
「そうだね」
変わらないこと、変えてはいけないことを大切にしながら。
僕らは、変えていくのだ。
自分を、世界を。

変わっていくことは、嬉しいことだから。
みんなを守れるようで、誇らしいことだから。

だから、安心してね。
昔の僕。





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2015年8月1日の彼らの話。タケルくん視点です。
なんだか祝ってるんだかなんなんだか意味不明な話になりましたが、愛だけは込めて。。
毎年のことですが、リアルタイムでの彼らを想像しながら自分を省みている気がします。
それ故に、メモリアル感が迷子です…(笑)
それはさておき、今年もまさかの公式イベントですね!今年は夜の部参加致します!
tri.とも絡めたかったのですがどうにもアレです、“僕の手には余るのです”状態です。
とにもかくにも楽しみ!です!
祝・メモリアル!!


作成日:2015/07/25
掲載日:2015/08/1