『お誕生日おめでとう。今年もタケルくんにとって良い年でありますように』

お祝いの言葉は、午前中には届いていた。
まるでお正月のような定型句だけど、気持ちはあたたかくなった。
ヒカリちゃんが心からそう祈ってくれていること、知ってるから。

でもやっぱり、少しだけさみしいなあ。
せっかくの誕生日に会えないのは。
もっとも、用事は僕の方にあったわけだから、どうしようもないんだけどね。

母さんの紹介で出版社に出入りするようになって、早数ヶ月。
取材で訪れた先でホテルに泊まって、原稿の執筆・・もとい打ち込み中。
いろいろな人と出会うことはとても充実した毎日だけど、
たったひとり会いたい人に会えないのは、ちょっと、ね。

振り返ってみると、沢山の人達に出会ってきた。
そのなかでも僕にとって特別だったのが、キミだった。
みんなは光り輝いているキミを見ていたみたいだけど、
僕はその裏側の、影を見ていた。
似ている気がしたんだ、自分に。
だから助けたくて、そして何よりも守りたかった。
キミの影をそれ以上増やさないように。
傷つかないように。離れないように。失わないように。

「って、これじゃあキミのためじゃなくて僕のためだな」
キミに頼られる自分でいたかったのかもしれない。
兄と弟でもあるまいし。

「あーダメだ、一旦休憩」
思考が変に落ち込んできた。筆も当然進まない。
パソコンから離れて、ベッドに倒れこむ。
「はあ〜・・・」
もうすぐ誕生日が終わる。
夕飯に軽くケーキは食べたけど、お祝い感は感じなかった。
スマホを見れば、お祝いのメッセージで溢れているというのに。

「声が、聞きたいな・・・」
そう呟いた瞬間に、持ってたスマホが振動した。
電話だ。『八神ヒカリ』・・・
名前を把握するが早いか、僕は電話に出ていた。
「もしもし、ヒカ──」
『もしもしタケルくん!?』
しかし、ヒカリちゃんのほうが早かった。
『よかった〜、ギリギリ間に合って』
「ヒカリちゃん、珍しいねそんなに慌てて」
まあ、本当は僕も人のこと言えないんだけど。
『だって、もうあと少しで今日が終わっちゃうから』
そう言うと、落ち着かせるように深呼吸して、
『タケルくん、お誕生日おめでとう』
そう、言ってくれた。
聞きたかった言葉が、沁み渡る。
生まれてきたことを特別な人に祝ってもらえるなんて、なんて幸福なことなんだろう。
「・・ありがとう」
それも、今は遠く離れたところにいるというのに。
『ごめんね、遅くなっちゃって』
「大丈夫だよ。お互いもう仕事もあるしね」
大人になったんだもんね、僕らも。
『うん、でも、言えてよかったわ』
ホッとしたのか、ヒカリちゃんは妙に涙声だった。
「ヒカリちゃん?」
『・・嬉しいの。ちゃんと祝えたことが。
もしかしたらもう、言えなくなっていくのかなって、思ってたから・・・』
はっとした。
月日が経つに連れて離れていった仲間たち。
当たり前のように受け入れてきた、僕たち。
でも、どこかで不安の影は、膨れていったんだと。

「ごめん、ヒカリちゃん」
『え?』
「気付かなくて、ごめん」
さみしいなんて思っちゃいけないって、思っちゃってたことに。
「ほんとはね、僕もさみしかった」

一瞬の沈黙。
僕の言葉に、ヒカリちゃんが頷いた気がした。
『私のほうこそ、気付かなくてごめんね』
「いいんだよ、そんなこと」
互いに謝っていても、仕方がない。
「・・早く仕事終わらせるから、すぐ、会おうね」
自然と口をついて出た言葉は、とても単純だった。
『うん、待ってる』
そして、返ってきた言葉も。

『早く、帰ってきてね』
それは泣きたくなるほど、あたたかい言葉だった。





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ギリギリですが、2014年のタケヒカ記念作です・・!
8/3を祝うことがすっかり恒例になっていたことに気づき、
是が非でも上げたかったので、ネタが降ってきてホッとしました。(^^;)
タケルは今頃こんなかな、とか毎年2人のリアルを考えるのが楽しいです。
来年には公式で新作とかとんでもないことが起きているのでどうなっているのやらですが、
兎にも角にも、今年もタケヒカが祝えて(?)よかったです!
ではでは、お読み下さりありがとうございました!

作成・掲載日:2014/08/03