「あれ?もうこんな時間か」
日暮れの遅い夏の夕方。とある喫茶店の角の席。
柱の時計は、ギリギリの時刻を指していた。



『最後だから』



「そろそろ帰ろうか」
そう言いながら、タケルは鞄に手を置いた。
「そうね。ちょっと急がないと」
久々に話しこんじゃったね、とヒカリもカバンに手を伸ばす。

「あ、お金は僕が払うからね」
伸ばされたヒカリの手が止まった。
けど。
「だめ。今日は私が払うわよ」
そう言いながら、カバンを手に取り足早にレジへと向かう。

「誕生日なんだから」
さっさと歩いてしまったヒカリに、呟きながらもタケルは甘えることにした。
「プレゼントはもう貰ったのに・・」
カバンから、ちらりとラッピングが顔を見せている。


「まだ明るいね〜」
店を出ると、ヒカリは嬉しそうに笑った。
「・・なんだか、不思議だな」
「?」
急ぎ足ながらも、ぼんやりと歩くタケルに「危ないよ?」と声をかけながら、ヒカリは言葉を待った。

「今年で最後だ、って思うと、色々と思い返したくなってきてさ」
「・・・そっか。今日で19歳だもんね」
おめでとう、とヒカリは少し笑った。今日何度目かな。
「こういうのって、20歳になったらかなって思ってたけど、意外と壁みたいなのって感じるね」
大きなビルの陰に入り、少し視界が暗くなる。

「あと1年で、何かが変わるような気がする」

「・・ゆっくり、変わっていくと良いね」
ヒカリは、優しい声で呟いた。

「うん。そうだね。これまでみたいに」
いつの間にか経っていた時間。
確実に過ごしていた月日。
寂しくなりながら、新しくなる。
どんどん、成長していく。変わって、いく。

「きっと、変わらないこともあるよね」
そっとヒカリの手を握り、タケルは言った。
遠くを見る目。真剣に。
何かを、願って。

「大丈夫。私は、隣にいるよ」
手を握り返して、ヒカリは大切そうに、答えた。

「ありがとう」


また1年、等身大で、たまにちょっと背伸びして、過ごしていけますように。





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2010年の8月3日、タケルの誕生日記念です。
なんとなく、いつもこんなようなお祝い文になっているようなそうでないような。(何)
19歳になったときの感慨は私の時を思い出したのですが・・忘れていました;;
なのでなんだか中途半端な形に。でも、気持ちだけはこめて。。
ではでは、お読みくださりありがとうございました!

作成・掲載日:2010/08/03