「いま、ヒカリちゃんを抱きしめてるよ」



あたたかさはそこに――



「じゃあ、お留守番、よろしくね。」
そう言って、お母さん達が出かけてから、もう2時間になる。
今日は、お兄ちゃんの新しいサッカーシューズを買いに行く日。
いつもの靴が古くなったから、今度の算数のテストで
90点以上とれたら、買ってあげる。そう言う約束だった。
それで、見事92点。お兄ちゃんは、帰ってくるなり
テストを見せて、お母さんと買いに出かけた。
私?私は、お留守番。一緒に行きたかったんだけど、
あいにく風邪気味。悪くならないように、家で待ってなさい
すぐに帰るから。って。

それからもう2時間。
どうしたんだろ?もう、暗くなってきたのに。
カチッ。
しーんとした部屋で、目覚ましがなる。もう6時半。
「お腹空いたなぁ…。」
夕御飯の準備くらい、しておこうかな…。
そう思って、部屋から出ようとドアノブに手をかける。
そしたら――

「!!!」
急に、寂しくなった。悲しくなった。
怖くて、たまらなくなった。
小鳥の鳴き声がする。
すごく、悲しそうに鳴いている。
「そんなに悲しい声で鳴かないで…。」
私は、小鳥の声のする方向―ベランダの方に向かって呟いた。
暗くて、小鳥の姿は見えない。
ついさっき消した電気をつけようと、手を伸ばそうとする。
鳴き声が激しくなった。
悲しくて悲しくて、
寂しくて寂しくて、
何かがすごく怖い。
私は、怖くなって、ドアを開けた。

月明かりもない暗い部屋。鳴き声はやまない。
「たすけて…。」
誰か、たすけて。
…お兄ちゃん…お母さん…お父さん…。
でも、今はみんないない。誰もいない。
誰も、私を助けてくれる人が、いない。
どうしよう…怖くて怖くてたまらない…。
誰かにそばにいてほしい…。
こんな暗闇の中に、ひとりでいたくない。
だれか…だれか…。
そのとき、私の中に1人の顔が浮かんだ。
『タケル君』
私は、とにかく誰かの声が聞きたくて、急いで受話器を取った。
「お願い…早く…早く出て…!!」

「はい。高石です。」
急に…なにかあったかいものが…私の胸にあふれた。
「タケル君…。」
「ヒカリちゃん?どうしたの?なんか、元気ないよ?」
「…たすけて。」
「え?」
「今、留守番してるんだけど…なんか、すっごく…怖いの。
 小鳥の鳴き声がして…すごく、悲しくて、寂しくて…。」
どうしたらいいのか、わからない。
なんて言えばいいのか、わからない。
でも、とにかく、言ってみた。
伝わらなくても良いから、とにかく、誰かと話していたいから。

「ヒカリちゃん…。」
少しして、タケル君が声を出した。
「手、繋ごうか――?」
「え…?」
私は、つい思ってしまった。
なにを言ってるんだろう?
って。
だって、これ、電話だよ?
タケル君は今、離れたところにいるんだよ?

なんて返事をしようか迷っていると、タケル君が話し始めた。
「あのね、僕が、今からヒカリちゃんの手を握る。
 もちろん、本当には握れない。だから、想うだけ。」
「想う…だけ?」
「そう。これ、お兄ちゃんが考えたんだ。別々に暮らす
 ようになって、電話だけになったときに。離れていても
 近くにいるように…そばにいるように、感じる方法。」
「そばに…いるように…。」「やり方は、想うだけ。3つ数えたら、僕はヒカリちゃんの
 手を握っている。ヒカリちゃんは、僕に手を握られている。
 そう想ってね。」
「…わかった。」
「じゃあ、いくよ。3…2…1…。」

手が、あったくなった。
誰かに、握ってもらってる。
そんな感じがする。
「わかるかな?いま、ヒカリちゃんの手、握ってるんだけど…。」
「わかる…すっごく…よくわかる。」
「よかった。僕も、わかる。感じるよ。」
「すっごいな…どうして…なのかな?」
「うーん…。お母さんは、握られたときの感覚を、
 思い出してるんじゃないか、って言ってたけど、
 僕は違うと思う。」
「じゃあ、なに?」
「たぶんだけど…キモチ…じゃないのかな?」
「キモチ…。」
「そう。心と心が通じ合ってる。そんな感じ。」
心と心が通じ合う。
お互いのキモチが、通じてる。
「私も、そう思う。」
「ほんと?」
「うん。目を瞑ると、そこに、タケル君がいる。私の手を
 握っているタケル君が、そこに。すぐ、そばにいる。」
「…僕も、ヒカリちゃんをそばに感じるよ。」
「タケル君…。
 ありがとう。本当に。ありがとう。」
「そんな…お礼言われるほどのことじゃないよ。」
「そんなことない。ほんと、ありがとう。なんだろう…
 よくわかんないけど、すっごく、感謝したい気分。ほんと、
 いままで、いろいろとありが」
「やめて!!!」

びっくりした。
急に、怒鳴ってきたから。
私、なにか、した?
「えと…あの…。」
なんて言ったらいいのかな…?
謝らなきゃ…。
「ごめん。」
「え?」
先に、タケル君が謝ってきた。
「ごめんね。なんか、ヒカリちゃんが遠くに行っちゃい
 そうだったから。」
「私が?」
「うん。お母さんが、引っ越しの時、お父さんに言った言葉と、
 同じだったから…。」
「『今まで色々とありがとうございました』って。」
「あ…。」
「もう会えないみたいだった。もう…2度と…会えなく
 なるのかなって…そんな感じがして…ほんと、ごめんね。」
「そ、そんな、私の方こそ、ごめんね。なんか、急に
 感謝したくて。みんなに…みんなに、感謝したくなって。」
「ヒカリちゃん…。」
「どうしてだろうね?おかしいよね!急に…こんなに
 感謝したくなるなんて…。」
私は、半分笑いながら、言った。
本当は、悲しかった。
悲しくて、寂しかった。
もう、みんなに会えない。だから、感謝したい。そんな感じ。
急に、そんな感じがしたから。
そのことをタケル君に言おうかと思ったそのとき、誰かに…
なにかに呼ばれた気がした。

「タケル君…。」
「…なに?」
「わかんないけど…誰かに…なにかに…呼ばれた気がするの。」
「え?」
「暗くて、怖い。なにか…すごく真っ暗な…悲しい世界…。
 私を…呼んでる…。」
ううん。呼んでるんじゃない。
吸い込もうとしてる。
「ヒカリちゃん?」
ダメ…もう…。
「近くまで来てる…!!」
「ヒカ――」
「来ないで…!やめて…!!お願い…!!やめて…!!!」
吸い込まれる――!!
「ヒカリちゃん!!!」
暗い闇の中、光が見えた気がした。
「大丈夫!?ヒカリちゃん!!」
この声。彼の、この声を聞く。それだけで、私は――。
「ねえ、大丈夫なの!?返事して!!」
――希望の光を、見ることが出来る。
「大丈夫だよ。ありがとう、タケル君…。」
「…よかったぁ…。」
ありがとう。心配、してくれたんだね。
そう思ったら、なんか、急に別の気持ちが出てきた。

「ねえ、タケル君。お願い、聞いてくれるかな?」
「…?」
「抱きしめて…。」
「え…?」
タケル君に、抱きしめてほしい。
これが、私のお願い。
寂しいとき、悲しいとき。
暗闇の中、つらい感情が渦巻いていたとき、
あなたに抱きしめられたら、どんな絶望も、吹き飛びそう。

「…ダメ?」
やっぱり、ダメだよね?
こんな、私のことなんか、抱きしめてなんか…。
「…いいよ。」
「…ほんとに?」
抱きしめて、くれるんだね?
「うん。」
「ありがとう。」
「お礼なんか、いらないよ。」
「でも…。」
感謝したいよ。
私の…こんなワガママ、きいてもらっちゃって…。
「いいから、3つ、数えるよ。」
「うん…。」
「3…2…1…。」

光に、包まれた。
体中が…あったかい。
もう…、闇なんか、絶望なんか、怖く、ない。

「いま、ヒカリちゃんを抱きしめてるよ。」
そんな、彼の言葉が、さらにあったかくしてくれる。
心の底から、あったかく、元気が、出てくる。
「うん…。わかるよ…。
 今、すっごく…あったかい。心の底から、あったかい。」
「うん。僕も、あったかいよ。心の、底から。」
「タケル君…。」
「私ね、タケル君に抱きしめられると…ううん、
 抱きしめられなくても、そばにいるだけで…声を聞くだけで、
 元気が、出てくるの。」

「…僕も、だよ。」
「え?」
「僕も、ヒカリちゃんが、そばにいるだけで…
 声を聞くだけで、元気が出てくる。
 光が、見えてくるんだ。」
「光…。」
「そう、ヒカリちゃんの、光。」
光。
私の…光。

「そして、僕の、光。」

タケル君の…光。

「…私も、ね。」
「私も、希望が、見えてくる。」
「希望…?」
「うん。タケル君がいれば、闇なんか、怖くない。
 絶望なんか、怖くない。」
「希望に、包まれるの。」
「希望に…。」
「そう。タケル君は、私に、希望をくれるの。」
いつでも、タケル君は、私に希望をくれる。
どんなときでも、颯爽と現れて。
そう、まるで――。

「――希望の王子様…みたいに。」
「…希望の…王子様?」
「うん。私を、お姫様でもない私を、いつでも助けてくれる、
 優しい、王子様。」
「ヒカリちゃん…。」
そう。私は、タケル君のお姫様じゃない。
私は、タケル君のためになんて、なにもできない。
ただの…ただの…。

「ヒカリちゃんは、お姫様だよ?」
「え…?」
「ヒカリちゃんは、僕の、お姫様だよ。」
…私が、お姫様?タケル君の?
「ヒカリちゃんはね、僕に、光をくれるんだ。」
私が、光を…?
「闇に飲み込まれそうになって、もう、希望もなくて。
 そんな、絶望の中でも、ヒカリちゃんがそばにいると、
 ヒカリちゃんの声を聞くと、希望が、持てるんだ。」
うそ…。
「ヒカリちゃんがいるだけで…、ヒカリちゃんの
 声を聞くだけで、光が見えて、希望が持てる。」
そんなわけ、ない…。
「闇なんか、怖くない。絶望の中でも、希望が持てる。
 だから、ヒカリちゃんは――。」
私なんかが…。
「――僕の、光のお姫様だよ。」
お姫様…。

「ほんと…に?」
「うそなんか、つかないよ。」
「じゃあ、本当なんだね…?」
「うん。本当だよ。」
「ありがとう…。」
「お礼なんか、いらないってば。」
「あ…ごめん。」
「いいんだよ。」
彼の声が、聞こえる。
広い世界で、私だけが、彼の声を聞いてる。
私をお姫様と言ってくれた、希望の王子様。

「ねえ、タケル君。」
「…なに?」
「ずっと、私の王子様でいてくれる?」
こんな私を、ずっと、お姫様にしてくれるの?
「ヒカリちゃんが良ければ、ね。」
「私はもちろん、良い。
 …タケル君は、良いの?」
「だから、良いって。約束する。」
「ほんとだね…?」
「…証拠に、なにかヒカリちゃんにあげるよ。」
「…なにを?」
「うーん…。なにか…ヒカリちゃんに似合う物。」
「…いますぐじゃ、ダメ?」
「え?」
いま、すぐ。
後でじゃない。
物じゃなくていい。
だから…。
「…じゃあ、王子様とお姫様の、証拠。」
「…王子様とお姫様の、証拠?」
「うん。ぼくが、ヒカリちゃんの王子様って、証拠。」
「…どんな…?」

「……キス。」

「え…?」
少し間を空けて返ってきた答え。
小さいけれど、他のなにでもなく聞こえた、言葉。
その言葉に、多少動揺しながらも、彼の声を聞いた。
「…いいかな?」
なんだかよくわからない、不思議な気持ちを胸に、答える。
「…うん。」
「じゃあ、いくよ…3…2…1…。」

唇が、熱くなる。
タケル君が、好き。
なんだかわからないけど、とにかくそう思う。
大好き。タケル君が、大好き。
ずっと一緒にいてほしい。
ずーーっとそばにいてほしい。
とにかく私は――

――タケル君が、大好き。

「タケル君…。」
「ヒカリちゃん…。」
「私、タケル君が大好き。
 そのキモチで、いっぱいだった…。」
「僕も。ヒカリちゃんが、大好き。
 そのキモチで、いっぱいだった。」
「不思議ね…。」
「ほんと…不思議だね。」

「ただいまー。」
お母さん達が、帰ってきた。
「ヒカリー、遅くなってごめ…って真っ暗じゃないか!」
そう言うと、お兄ちゃんが電気をつけた。
真っ暗だったこと、忘れてた。
小鳥の鳴き声も、あのいやな感じも、いつの間にかやんでいた。
全然気付かなかったな。

「ヒカリちゃん?」
「あ、お兄ちゃん達、帰ってきたから。」
「あ、うん。わかった。」
「今日はありがとうね。」
「ううん。僕の方こそ、ありがとう。じゃあ、またね。」
「うん。また…ね。」
また…か。
次、会えるのはいつだろう?
次に会う予定があるのは、来月の終わり。
それまで、会えないんだろうな…。

そんな風に、寂しいな、と思っていたから、
彼の言葉が、いつもより、嬉しかった。
「…今度は、僕から電話してもいい?」
また、タケル君の声が聞ける。この、優しい声が。
それだけで、私は嬉しいから。
「うん!もちろん!」
「よかった!それじゃ、またね!」
「うん!またね!」
「バイバイ。」
「バイバイ。」
そう言って、電話を切ろうとしたとき、小さく、聞こえた。
「大好きだよ。」
私は、切ろうとした手を止め、急いで、言った。
「私も。」
電話の機械音が聞こえた。
タケル君に、最後の私の言葉、聞こえたかな?
聞こえてなかったら、ううん。聞こえてても、
今度の電話の時に、言おう。
次は、私から。

『大好きだよ。』

って。

「ヒカリー、遅くなってごめんなー。」
私が受話器を置くと、すぐにお兄ちゃんが、
さっき言いかけた言葉を言う。
「お店に野良猫が入って来ちゃってねー、もう大騒ぎ。」
お母さんが、遅くなったわけを話してきた。
「まったく。あの猫ときたら、うちのミーコよりも
 速いし、強いし、もう店の中メチャクチャ。」
「そっか〜。大変だったんだね〜。」
そう言いながら、ふと、ミーコのことを思い出す。
学校から帰ってきてから、ミーコはお父さんの部屋から
出てこない。
「でも、本当に野良猫だったのかしらね?
 毛の色も真っ白で綺麗だったし…。」
そんなお母さんの声を聞きながら、私は
お父さんの部屋に入った。

「ん?どうした?」
お兄ちゃんが後から入って来た。
ミーコは、2時間前と変わらず、窓の外を眺めている。
でも、2時間前は確かにいた、あの黄色の鳥――
たぶん誰かのペットだと思う――がいない。

「おーい、ミーコ〜。」
お兄ちゃんの声に、ミーコは振り向いた。
2時間前は、何回呼んでも振り向かなかったのに。
「ミーコ〜…どこ行くんだよ。」
ミーコは部屋を出て行った。
どことなく、ベランダに未練があるように。

「…ベランダに、なにかあるのかな?」
そう言いながら、私はベランダに出てみた。
すると――

「あ…。」

――小鳥が、いた。
白い、小鳥。
小鳥の周りには、白い羽根と、黒い羽根が、散らばっていた。

「…カラスと、戦ったのかもな…。」
お兄ちゃんが、そう言った。
そのとき、全てがわかった。
あの、寂しい気持ちと、感謝の気持ち。そしてあの、
吸い込まれそうな暗闇。
あれは…この小鳥さんの気持ち。
…死ぬ、間際の…。

「ふぇ…ふぇ…ん」
涙が出てきた。
「…ヒカリ?」
お兄ちゃんが、どうした?と言う顔で聞いてきた。
私は、答えられなかった。
泣いていて、言葉が出せなかった。
この白い小鳥さんは、あの黄色の鳥さんを助けたんだ。
カラスから、命がけで…。

私は、小鳥さんの羽根を拾いながら、
お兄ちゃんに話した。留守番中の出来事を…。
「あのね…留守番…してるときにね…小鳥さんの…
 声が聞こえたの…。」
「悲しくて…寂しくて…それから、急に、感謝したくなって…。」
「…そうか。…じゃあさ、お墓、作ってやろうか。」
私の説明に、納得したのか、お兄ちゃんは、優しく、
そう言ってくれた。
「うん。」
そして、私はお兄ちゃんと、公園に小鳥さんを埋めに行った。


「まあ、なにはともあれ、無事でよかった。」
夕御飯の時、小鳥さんの声のことを話していたら、
お父さんが言った。
「ヒカリは、昔っからなにかを感じる力、強かったものね。」
「ほんと。…ところで、さっき、なにを言いかけたんだ?」
「さっきって?」
「ほら、公園に行って、帰ってくるとき、友達に会っただろ?
 その直前に…。」
「ああ…。」
そう。公園に行ったとき、行きは小鳥さんを持ちながら、
なにも話さずに行ったから、帰りに、タケル君のことも話そう。
…そう思って、口を開いた瞬間に、千里ちゃんに会ったのだ。
帰るまで千里ちゃんの話をしてたし、帰ったらすぐにご飯。
考えてみれば、まだ、話していなかった。
「あのね、小鳥さんの声を聞いた時、誰かと話がしたかったの。
 1人じゃ、寂しかったから…。」
「それでね、電話したの。」
「そういえば、帰ってきたとき、楽しそうに電話してたわね。」
「そういやそうだったな。で?誰と?」
「タケル君。」

「・・・」

一瞬、沈黙した。
お母さんはなにか面白がっているような、
お父さんはなんかかなしそうな、
お兄ちゃんは怒っているような、
みんなはそんな顔をしていた。
「で、タケルと、どんな話をしたんだ?」
少しして、お兄ちゃんが私に聞いてきた。
「あのね、手を繋いだの。」
「はぁ?」
「ヤマトさんが考えたらしいんだけど、手を繋いでるって、
 想うだけで、そんな感じがするんだ。」
「そのおかげでね、暗い闇の中でも、
 タケル君のぬくもりが伝わってきて、希望が見えてくるの。」
「そ、そうか…。」
お父さんが、なにやら悲しげに言った。
「希望…か。」
お兄ちゃんが呟いた。
「うん。タケル君はね、私の希望の王子様なの。」
「!!王子様!?」
「な、なんだよそれ!?」
お父さんとお兄ちゃんが声を上げる。
「あら〜。なあに?2人とも〜。
 ロマンチックでいいじゃないの〜。ねえ?」
お母さんは笑いながら言った。
お父さんもお兄ちゃんも、黙ったまままたご飯を食べはじめた。
「あのね、そのことタケル君に言ったの。」
「希望の王子様って?」
お母さんが、楽しそうに言う。
「うん。そしたらね――」
「言ったのか?」
「笑われただろ。」
お父さんとお兄ちゃんの声にちょっとムスッとなりながら、
私は続けた。
「――お姫様だって言われたの。」
「え?」
「私のこと、光のお姫様だって。」
「…そうか〜…。」
「…よかったな〜…。」
お父さんとお兄ちゃんが、なんか引きつったような笑顔で
そう言った。
「王子様とお姫様か〜。なんかいいわね〜。」
微笑ましわ、とでも言いたげに、お母さんが言った。
「で、でもよ〜、あいつ、泣き虫だし、背だって、
 お前より低いし、それに、兄貴べったりだし。」
お兄ちゃんのこの言葉に、私はちょっと(?)怒った。
「ひっどーい!!そのこと、タケル君結構気にしてるん
 だよー!?」
「いや、だからさ、そんな奴が王子様で、いいのかって
 聞いてるんだよ。」
「いいに決まってるでしょ!?もう。ごちそうさま!」
怒りながら、私はお皿をキッチンまで運んだ。

「…なあ、ヒカリは…その…タケルって子と、お父さんと、
 どっちが…好きなんだ?」
キッチンから出てきた私に、お父さんは、
なんか緊張したような顔で聞いてきた。
「え?…うーんと…おんなじ!」
「お、おなじ?」
「うん!私、お父さんもお兄ちゃんもお母さんもタケル君も、
 みーんなおんなじくらい、大好き!」
「そ、そうか…。」
「おんなじ…か。」
「そ〜う…。」
「うん!」
私はそう言うと、なんか硬直状態って感じのお父さんと
お兄ちゃん、そして、微笑ましくも悲しそうなお母さん
を後にし、部屋に入った。

部屋に入って電気をつけると、私はすぐに机の引き出しを
開けた。
その中には、小鳥さんを公園に埋める前に、
大切にしまった物がある。
それは、小鳥さんの白い羽根、2枚。
私は、それをどうするか、もう決めていた。

「…どうしてるかな…テイルモン。」
天使の羽根みたいだな、そう思って、つい、口にした言葉。
口にしてすぐ、冒険の記憶が蘇ってくる。
そして、思い出しながら、私は、小さなプラスチックの
透明の箱を2つ取り出した。
2つとも、昔、ホイッスルが入っていた箱で、今はなにも
入っていない。
その箱に、新たに思い出を詰めるかのように、羽根を入れる。
ぴったり、羽根は箱に収まった。
まるで、この羽根のために作られた物のように。
私は、その箱を電気に透かしてみた。
透明な箱の中で、羽根だけが浮いているように見える。
「…やっぱり、天使の羽根だな。」
私はそう呟くと、もう1人の天使の使い手の顔を、
思い浮かべながら、首飾り用の紐を取り出すのであった…。





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皆様如何でしたでしょうか。こっ恥ずかしいです。そしてここで終わり!?というのが2021年本人の率直な感想です。
えー、サイト15周年記念ということで、1番最初に書いたタケヒカ文をサルベージしてみました。
修正とかすればよかったのですが、キリがなさそうなので原文ママです。すみません…。
セリフばかりだし『』で使い分けてもないし改行は変だしでめちゃくちゃ読みづらいですね!?
雰囲気でお楽しみいただけたら嬉しいのですが…。
しかもこれ、なんとRPGツクールのイベントエディタ内に保存してまして、
なんとセリフごとにコピーしなきゃならなくて…コピーだけで20分くらいかかるという…。
当時はPCが家族用だったのもあって、誰にも見られる恐れのない場所かつ慣れているということでそこ使ってたんですよね…。
ていうことは覚えていたので、いつか引っ張り出そ〜なんて思ってたら15周年ですよ。
ちなみに書いたのは2005年だそうです。以下、あとがきも少しサルベージ。

どうも。読んで下さってありがとうございます。
初めてのちゃんとした小説です。
当初の予定より少しずれましたが、なんとか書き上がりました。
いや〜、やっぱり、小説って大変だな。
思ったより時間かかっちゃいました。
って言うか、時間かけたわりにこの駄文度。
途中ヒカリちゃんのキャラが微妙になるし、
王子様とお姫様が突如として現れるし。
なんか無駄に長いような気がします。
もっと精進しなきゃなあ…。
とりあえず、今回のコンセプトは
「闇・お互いの希望と光・天使のような羽根」
となっています。
作中で気付いた方もいるかも知れませんが、
「白い小鳥」→「エンジェモン」
「黒い羽根」→「デビモン」
「緑色の鳥」→「タケル」
「白い猫」→「テイルモン」
をイメージしております。
最後にヒカリが作っていた物は、
後に別小説にて明らかになるでしょう(笑)
では、最後まで読んで下さったみなさまに、
心より御礼申し上げます。
ありがとうございました。
(追)感想お待ちしております。
2005/11/26/土曜日12時34分/完成

…だそうです。ここまで書いててなんで掲載しなかったんだろう…?
サイト開設の3ヶ月前ですよね…謎・謎・謎…。(ノリが過去に戻っている)
そして別小説ってなんですか!!笑
ヤマ空の学芸会編があって、この話があって、タケヒカがあって、光ミミの話があって。
っていう流れのメモはあったんですが、何があったんだよ。
全然覚えてないのが残念ですね…。11/1設定なのもほんと謎…。
ただこの話の流れだけは妙に覚えてまして。詳細とかは忘れてましたが、
羽根とか、以心伝心とか、もしかしたら他でもう使ってたかもしれませんが、
ずっと心の隅っこに残っていて、いつかちゃんと出したいな〜とは思ってました。
改めて読み直すと、原点だな〜って感じですね〜。私のタケヒカへの好きポイントが詰まってる。
いずれきちんと書き直したいです。
とにかく1度こうやって表に出せてよかったです!
というわけで、サイト15周年記念でした!

作成日:2005/11/26
掲載日:2021/02/10