「はい。タケルくん」
1年ぶりに、ヒカリはタケルにチョコを渡した。
「ありがとう。ヒカリちゃん」
例年通り、タケルはヒカリのチョコを受け取る。

「今年もまた、いっぱい来るのかな」
2月14日の登校中。
「うーん…どうだろうね」
いつからか、毎年恒例になった会話。

「きっと、下駄箱に机。あと部室。それから家のポストにもあるんじゃないかな」
昨年までにいた、置いていく人。
「帰るまでが怖いよ」
嫌味なまでに言い切る、直接派との憂鬱なやり取り。

「そんな事言ったら可哀想よ」
色恋噂の顕著な日。ヒカリの耳にも当然入る、女子達の動向。
「でも、結局みんな『自分チョコ』だし」
タケルの言葉に、淡々とした会話のリズムが若干狂う。

『自分チョコ』

「それって、自分へのご褒美でしょ?」
もらい物やあげた物は含まれないはず。
「そ。頑張った自分への、『本命へ』っていう名の自己満足チョコ」
あっさりと言いのけ、想いを詰めたであろうチョコレートが立場を失う。

「モテる人は違うのね」
断るのが大変なのは、ヒカリも何年か見ていてわかったはいた。
「押しつけの気持ちはね」
直接来る程の気持ちでもなく、ただ置いてあるそれは特に不気味で。

「でも、本当はチョコ欲しいんでしょ」
毎年、もらった物は他の人に譲っているが、元々タケルはチョコを食べるほう。
「表面だけで判断した好意なら、受け入れるつもりはないよ」
この特別な日に何かをもらうのは、中身はともかくそれだけで一騒動を巻き起こす。

「それなら、本音を出せばいいのに」
少し目を逸らしがちにした、ヒカリの言葉。
「…ヒカリちゃんがそれを言う?」
普段からお互いの姿を見ていれば、目を逸らした理由すらも見当がつくもので。

お互い、すぐに笑い出した。
無理に中身を出しても仕方ない。
それを心からわかっているから。
皆に慕われるように接し、その結果がこの日なのだから。

「そうだ。タケルくん、私の今年のチョコ、何かわかる?」
笑いを止め、ヒカリが問いかける。
「んー…ガトーショコラ?」
箱を手に持ち、重さと大きさと普段の様子を思い浮かべ、答えるタケル。

「!?…さあ。答えは見てからのお楽しみよ」
一目で図星とわかる表情をした後、ヒカリは答えを語らなかった。
「わかった。楽しみにしておくよ」
タケルは追及するでもなく、数分後には開けているだろうと思い、返事をした。

「でもね、問題はその意味じゃないの」
先程の問いは、どうやら解釈違いだったらしい。
「じゃあ、どういう意味?」
別の考え方があったか、問いかけを思い出す。

「1番、義理チョコ」
「?」
「2番は、友チョコ。3番は、仲間チョコ。4番は、本命チョコ」
さて、どーれだ?

「そーだなー…」
タケルは意味を理解すると、数秒間思いを巡らせた。

「隠れ5番の自分チョコ」
数秒後にタケルは答えを出した。ヒカリの反応は…

「当たり」

笑顔の返答だった。

「どうしてわかったの?」
同じく笑顔のタケルへ、回答理由を求める。
「僕とヒカリちゃんは、2人で1人みたいなものだから」
即答で当然の如くな理由。

「さすが、なんでもわかるのね」
自分へのご褒美であり、自己満足であり、そしてそれは、
「僕ならそうするからね」
相手が自分であるからこそ、100%成就のチョコレート。

「それじゃあ、またあとでね」
学校に着き、タケルとヒカリはそれぞれの部室へ行く。
「うん。またあとで」
教室で会話する機会はそう多くないが、目と目でやり取りすることは、多々ある事実。

タケルは、反対の方向へ歩き出したヒカリに声を掛けた。
「ホワイトデー、お楽しみに」
その声にヒカリは少し振り向くと、
「うん。楽しみにしてるね」
と、一言だけ言った。


部室までの、誰もいない道のり。
タケルはヒカリからもらった箱を開けた。

「…当たり」

中にあるのは、ハート型のガトーショコラ。




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バレンタインタケヒカです。
年齢は中学か高校くらいイメージだったので、ここはリアルタイムに16才設定ということで。
友達以上正式恋人未満な状態です。
こういった雰囲気、妙に好きです(何)…内容も妙ですが;;変な所多々…。
せっかくの1年に1度の日なのに甘々じゃないですね。。たまにこんな感じの2人が好きになるんで、今はその周期です。(笑)
読みづらい文章でしたが、ありがとうございました!

作成日:2008/02/13
掲載日:2008/02/14