高石タケルの憂鬱

もう!タケルって、いつからあんな嫌な性格になったのかしら?ちょっと前まではすっごく可愛かったのに・・・。
そうだ・・・、一回別れてみれば分かるかも。久しぶりにタケルの泣きそうな顔も見てみたいし・・・・。
タケルと別れるのは、嘘でも辛いけど・・・。たまにはお灸を添えてあげなくちゃね。

この決断が自分の首を絞めることになるとは、ヒカリは思ってもいなかった。
まあ、タケルのことを無敵だと言う事を忘れていなければ何も起こらなかったのだが。

ヒカリ「タケル、大事な話があるの。今日の放課後、屋上に来て」
タケル「えっ?」
ヒカリ「それじゃ!」
タケル「ちょ・・・」
ヒカリは用件だけ伝えると、小走りで去っていった。この時、タケルがヒカリの癖を見落としていれば、ヒカリの作戦は成功していたであろう。
タケル「どんな嘘付くつもりだ・・・・?」
この時点でヒカリの野望は打ち砕かれていた。そう、ヒカリは嘘をつく前に、手と足が一緒に出るという、致命的な癖があるのだ。
タケルはその癖を知っていたため、ヒカリはこの後嘘をつくと言う事を予測した。
そうとは知らず、ヒカリは楽しみにしていた。タケルの泣きそうな顔を見ることを。


放課後
ヒカリ「・・・・、タケル・・・。もう、私達・・・別れましょう・・・?」
タケル「なっ!?」
流石のタケルも一瞬ショックを受け、顔に出てしまった。それを見て、ヒカリは内心絶叫を上げる。
ヒカリ(勝った!)
だが、やはりタケルは無敵だった。ヒカリの口元が一瞬歪んだのを見逃さなかったらしい。
タケル「そう・・・・、分かった・・・・。ヒカリちゃんがそういうなら・・・・」
そう呟き、直に踵を返すと走って行った。もちろん、タケルの口元もほんのわずかに歪んでいる。
タケル(僕とサシでやり合おうなんて、10年早いよ・・・)
不敵な笑みを浮かべるタケルに、ヒカリは気付くわけがなかった。


翌日、タケルがどんな顔で登校してくるかを楽しみにしていたヒカリは酷く驚いた。
タケルは、まったくといっていいほど変わりがなく、ヒカリの期待は見事に裏切られた。
しかもタケルは、いつも以上に女子に優しく接していて、その笑顔は今までヒカリに向けられていたものと似ていた。
ヒカリ(どうして・・・、タケルは私のこと・・・、その程度の存在だと思ってたの・・?)
彼女の胸の中には、絶望と後悔が入り混じった感情が流れ込んできた。
ヒカリ(タケル、もう私は要らないの?それとも、最初から私は必要じゃなかったの?)

結局その日は、タケルの笑顔を直視する事ができず、終ってしまった。
彼女の中に残ったものは何もなく、失ったものはとても大きかった。
ヒカリ(どうしよう・・・、どうしよう・・・。私、タケルのこと好きなのに・・・)
後悔と自責の念だけが渦巻き、ヒカリの心を動かした。
ヒカリ(タケルのいない世界なんか・・・・)
気付けば、ベッドに寝転んでいて、そしていつの間にか、眠りに落ちていった。
瞳には、たくさんの涙を浮かべたまま。

一方タケルはというと。
タケル(もう、意地っ張りだな、ヒカリは)
全てを読んでいたタケルは、ヒカリの絶望的な顔が頭に残ったままだった。
タケル(明日、ヒカリのところに行って、たくさんの笑顔で迎えてあげよ)
少しだけ、後悔しつつも、タケルは大して気に止めず眠っていった。流石魔王・・・・・。
タケル「むにゃ・・・、誰が魔王だって・・・・?」
・・・、寝言でよかった・・・・・。


翌日。天気は快晴だが、ヒカリの心の中は大嵐だった。
ヒカリ(もし・・・、タケルがほんとうに去っていったらどうしよう・・・。そしたら・・・、私・・・・)
この世が終ったような顔で、ヒカリは登校してきた。咄嗟に、タケルの姿を探すが、教室にはいなかった。
ヒカリ(タケル・・・・)
心の中の闇が、広がっていったような気がした。


ふと、ヒカリの視界が真っ暗になった。一瞬、暗黒の海かと思い身体を硬くしたが、次の瞬間抱きかかえられた。
状況がよく分からないまま、ヒカリは気付くと屋上にいた。
タケル「ひ〜か〜りっ♪」
ヒカリ「なっ!?」
視界が回復したと思ったら、耳元で楽しそうなタケルの声がした。
この時、ヒカリはまた敗戦したのだと理解したが、もうそんな事はどうでも良かった。
ヒカリ「たけっ・・、ひっく、えぐっ・・・、たけりゅ〜・・・・」
たった1日話さなかっただけで、この有様。ヒカリは思いっきり泣き出して、タケルにとびついた。
タケルは一瞬、嫌いなんじゃないの?と追い討ちをかけようか迷ったが、そこまですると流石に可哀想なので止めておいた。
ヒカリ「たけりゅ・・、ごめん、だいしゅき〜・・・えぐっ」
タケル「もう・・、僕に勝とうなんて考えるからこうなるんだよ?」
ヒカリ「ひっく、ごめんなさい・・・。あぐっ」
しばらく泣き続けたヒカリは、唐突にタケルの唇に自分のそれを合わせた。
突然の出来事に対応できなかったタケルは、一瞬だけ顔を赤くした。
それをヒカリは見て、満足そうに言った。
ヒカリ「私の勝ち!」

結局、この日を境にヒカリはタケルに勝とうと、気を起こすことはなくなった。
が、タケルの魔王っぷりはまだまだ続いたらしい。





海老の尻尾様より、1万ヒット&1周年&誕生日プレゼント&2万ヒット記念にいただいちゃいました!!
リクの内容は、「前回の「小麦の誘惑」のタケルのような、そんな魔王様で!」と、そんなおねだりでした(^^;)
ちなみに、「小麦〜」の続きだそうです。
いやはや、タケ様おそろしい!不敵な笑みで余裕の言葉…やられたら倒れますよ!(←色んな意味で)
さすが、寝付けない夜に魔王様を思い出した時、その日に見たホラー映画のシーンより怖かっただけのことはあります。(私の脳内大丈夫か)
しかし、今回ばかりは最後の最後でヒカリの大逆転!?
タケルに勝てるのはヒカリだけですね。(笑) …魔王様健在のままですが。そこがいい。(ぇ)
タケルの魔王様ぶり、堪能させていただきました!
海老の尻尾様、本当にありがとうございました!!


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