八神家のとある日曜日の午後―。

両親は出掛け、太一はサッカーに。

そして留守番のヒカリは、来客用のティーセットを出し、カチャカチャとお茶の準備をしていた。

ご機嫌に軽く鼻歌まで歌っている。そこへテイルモンがやって来た。

「ヒカリ、今日はどうしたの?」

「うん。あのねテイルモン、今日うちでタケルくんと一緒にお勉強するの♪」

「ああ、それで…」

テイルモンはヒカリがいつになくご機嫌な理由が一気に理解出来たが、

特に深追いせず、軽く納得したそぶりだけ見せた。

「パタモンも来るよ。テイルモンも一緒にお勉強する?」

「邪魔になるといけないから、パタモンと遊んでるわ」

そんな会話をしていると―…

ピンポーン…

「あ、はーい!」

どうやらタケル達が到着した模様。

返事をし、玄関に向かうヒカリの背中に、テイルモンは先程の会話の続きを小さく呟いた。

「…色んな意味でね」


ヒカリが玄関のドアを開けると、やはりタケルとパタモンだった。

「こんにちは、ヒカリちゃん」

「いらっしゃい♪タケルくん、パタモン」

ヒカリはタケルとパタモンを家の中へと招き入れた。

パタモンは入るなりテイルモンの方へと飛んで行き、早速リビングでゲームを始めた。

お茶の準備の途中だったヒカリは、自分の部屋のドアを指差し言った。

「そこが私の部屋だから、先に入って待ってて」

「手伝うよ」

「大丈夫!すぐだから」

ヒカリがそう言うならと、タケルは来客らしく待つ事にした。

タケルにとって女の子の部屋に入るのは初めての経験で、少しドキドキしながらゆっくりドアを開けた。

ドアの向こうに広がるのはかわいくて優しい空間。

そして一歩足を踏み入れた瞬間、ヒカリの香りに包まれた。

主のいない女の子の部屋で一人そわそわしていると、タケルの視界にある物が飛び込んで来た。

ヒカリの勉強机の上に綺麗に並べられた小物。

その横に、タケルの写真が飾られていた。

『…僕の写真…?』

それはタケルが転校して来て間もない頃―…


「タケル君!」

呼ばれて振り向くと、ピピッとデジカメのシャッターがきれる音がした。

デジカメを構えたヒカリが満足そうに笑っている。

「ヒカリちゃん、今僕の写真撮ったの?」

流石に不意打ちをつかれ、タケルは少し困った顔をした。

「タケル君が転校して来た記念写真だよ☆」


『そうだ…。あの時の…。でも、なんで…』

「きゃあああああ!!」

タケルは我に還り、悲鳴が聞こえた方へ振り返ると、お茶を持ったヒカリが部屋の入口に立っていた。

どうやらタケルの写真を飾っているのをタケル本人に見られて焦ったらしい。

ヒカリはお茶を部屋のテーブルに置くと、勉強机に置いていたタケルの写真をぱっと隠した。

「えっと…これは…その…」

言い訳をしようにも頭の中が真っ白で、言葉に詰まってしまった。

するとタケルが、

「ずるいよ、ヒカリちゃん」

「…え…?」

飾っている理由を尋ねるでもなく、しかも自分の何がずるいのか分からないヒカリは困惑した表情をした。

「僕だって部屋にヒカリちゃんの写真飾りたいのに、一枚も持ってないんだもん」

「あ…」

ヒカリは、タケルも自分の写真を飾りたいと思ってくれている事にドキリとし、言い訳する必要がない事に安心した。

「だから、2ショットの写真撮らせてくれないかな?」

「う…うん!」

もちろん、ヒカリも飾るなら2ショットの写真の方が嬉しいに決まっている。
しかし2ショット写真を撮らせて欲しいなんて言えるはずもなく…。

しかし、その機会をタケルが作り、しかも逆にお願いまでされ、ヒカリは弾む思いで力一杯返事をした。

タケルはヒカリの勉強机に置いてあった、いつもヒカリが首から下げているデジカメを手に取った。

「このデジカメ貸してね」

「うん!テイルモンかパタモンにシャッター頼まないと…」

と、ヒカリがリビングへ向かおうとしたが、

「待って!大丈夫」

「え?」

立ち止まり振り向くと、タケルがヒカリの肩に手を回し、自分に密着させた。

「ほら!こうしたら撮れるよ♪」

当然ヒカリの顔は赤く染まった。

しかしレンズに写るタケルと自分が恋人同士の様で、赤い顔を隠すよりもいい笑顔で撮りたかった為、真っ直ぐにレンズを見ていた。

だからこの後の出来事に気付くのが遅れた。

「いくよ!3、2、1…」

ピピッ

「…?」

ヒカリはシャッターがきれる瞬間、頬に何かが触れたのを感じた。

タケルを見ると、どこか意地悪な笑みを浮かべている。

「タ…タケルくん…!?」

そう。タケルはヒカリの頬にキスをしたのだ。

気付いた途端、真っ赤になるヒカリ。更にタケルは追い討ちをかけた。

「ヒカリちゃんはどうして僕の写真を飾ってくれてるのかな?」

いかにも分かってるくせにヒカリに言わせようとするような言い回しと表情。ヒカリは少し膨れて言い返した。

「タケル君てこんなにイジワルだったっけ?」

「ヒカリちゃんが可愛いから僕がイジワルになっちゃうんだよ」

またまた爆弾発言をさらりと言ってのけるタケル。

ヒカリは怒りと喜びを同時に感じたが、それ以上に、そんなタケルも含めて全部好きだと改めて思った。

そして一生敵わないとも…。

ヒカリは観念して質問に答えようと口を開いた。

「私が…タケル君の写真を…、…?」

とヒカリが話し始めると、タケルは両手でヒカリの頬を包んだ。

「飾っているのは…、…!?」

そして少し上を向かせ、視線を真っ直ぐ合わせた。

「タ…タケ…」

ヒカリは爆発寸前な鼓動に耐えられなくなり、タケルに制止を求めようとした。しかしタケルは、

「いいから続けて」

と優しくも意地悪な笑顔。

『やっぱりイジワル!』と思いつつも、ヒカリの中には今のドキドキが楽しいと思っているもう一人のヒカリがいるはず。

ヒカリは少し息を整え、続けた。

「私が…」

「うん」

タケルはヒカリに少しずつ顔を近付けて行った。

「タケル君が…!」

「うん」

ヒカリはゆっくり瞳を閉じた。
タケルの唇はたった5cm程まで迫っている。

「す…」

ヒカリの告白と同時に、タケルとヒカリの唇が重なろうとした瞬間…

「うわあああああん!!」

突然パタモンの大きな泣き声が響き渡った。
タケルとヒカリは驚き、バッと離れた。

二匹の会話を聞いていると、どうやらゲーム中にトップでゴール寸前だった所を、テイルモンに逆転されたみたいだ。

一方ヒカリの部屋では気まずい空気が流れていた。

「…え…と…、勉強…しようか…」

とタケル。

「そ…そうね。写真は撮れたし…」

とヒカリ。

そして二人は少し冷めたお茶を飲みながら、ほとんど会話もせず勉強を始めたが、当然はかどるはずもなく、
結局ほとんど勉強などせずに別れの時間となった。


ヒカリとテイルモンは玄関の外でタケルとパタモンを見送る事にした。

「おじゃましました」

「また…遊びに来てね…」

朝と様子が違うヒカリにテイルモンは何かを察し、気をきかせた甲斐があったと満足げな顔をした。

「気を付けてね」

と手を振るヒカリ。

「うん。あ、そうだ。ヒカリちゃん」

とタケルがヒカリに近付いた。

部屋での事もあり、ヒカリは少しビクッとしたが、タケルはヒカリが逃げない様にヒカリの腰に手をかけ、耳打ちをした。

「今日の写真、プリントしたらちょうだいね♪」

ヒカリの耳から顔を離したタケルは、今度は可愛い笑顔で、

「じゃあ、また明日、学校でね!」

と帰って行った。

ヒカリはタケルの背中を見つめ、今日の出来事を思い出し、また赤くなっていた。

その様子を眺めていたテイルモンは、

「ヒカリ、何か良い事あったんでしょ?」

と含み笑いをしながら尋ねた。

「うん…。でもね…、テイルモン邪魔したでしょ」

「えっ!?」

―こうして八神家の日曜日は暮れて行った。





佐倉流梨様のHPにて初訪問と同時に300番を踏んだ時に頂いた小説です。
ドキドキするヒカリちゃんが可愛くて、そしてタケル様が…!!(様付けですか)
こういったタケヒカも大好きです!意地悪なタケルくん…。
もうとにかくにやけまくりでした。(笑)
佐倉様、素敵小説、本当にありがとうございました!!


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