「光子郎くーん。早くしないと始まっちゃうわよ〜」
とある休日。家の用事で久々に帰国していたミミは、仲間との待ち合わせに遅れそうな光子郎を迎えに来ていた。

「ミミさん先に行ってて下さい。僕はまだ時間掛かりそうなので」
「そんなのどーしてやるのよ〜。パソコンなんていつでも出来るじゃない」
「すみません、見通しが甘くて…」
光子郎にしては珍しいミス。それも、よりによってこの日に。

「あとどれくらい〜?」
「ですから、先に行ってて下さい。主催が遅れるわけにはいかないでしょう?」
今回の待ち合わせは、ミミの提案からだった。
偶然帰国の日がメンバーの誕生日に近く、せっかくだからとミミは誕生会を開くことにしたのだ。

「…光子郎くん、遅れていって主催の顔に泥を塗るつもりなのね」
「違いますよ!終わったらすぐに行きますので、先に行」
「じゃあ早くして」
つっけんどんに言い放つと、ミミはベッドに腰掛けた。

何年単位で久々の部屋。よく仲間達が集まり、会議を開いていた部屋。
本棚とパソコンが目立つ以外は普通で、昔から変化が少ない部屋でもある。
「(!…そーだ♪)」
ミミはあることを思い出し、本棚の1番上の段をよく見た。
すると、すぐに目的の物を発見し、立ち上がった。

「ミミさん?」
急に立ち上がりどうしたのか、と光子郎が見ると、ミミは本の影にあった紙切れを取り出していた。
「…それは…」
「まだここにあったのねー」
畳まれていた紙を広げると、小学生時代の2人の姿が。

「懐かしいわね。この似顔絵」

それは、ミミがアメリカに行くことになった年。
あと1日の登校で、ランドセルとさよならしてしまう日。
放課後、担任の先生が2人を描いてくれた。
冒険以来、仲良くしていた2人への、プレゼント。

「光子郎くん、まともに正面向かなかったのよね〜」
「どう向き合ったらいいのか、迷ってたんですよ。たしか」
似顔絵を見ながら、思い出に耽る。
なぜか第3者目線の記憶映像を上映して。

「それにしても、まさかまだこんなところに置いておくなんてね〜」
思い出の品を無造作に置いていたのには、わけがあった。
「置いたのはミミさんでしょう?」
「あら、でも部屋の主は光子郎くんよ」
些細なこと。とても可愛い小学生の譲り合いだった。

「でも普通は、転校する側がもらうものですよ」
「だって、なんだか悲しいじゃない。だから、光子郎くんの手の届かないところに隠したの」
「…あの時は悔しかったです」
「そりゃあ、私の知性が光子郎くんに勝った瞬間だものね!」
あの時は嬉しかった、とでも言いたげな顔で、ミミはからかった。

「結局、負ける気がして踏み台使いたくもなかったので、背が伸びるまで見ること無かったんですよね」
苦笑いしながら、小さかった頃の苦悩を思い出す。
「あの頃は私も背伸びでギリギリだったものねー」
今でこそ楽に届くが、数年前まではまだまだ子供だった。

「……私たちも、大きくなったわよね」
ふと、寂しそうな声でミミは言った。
「あっという間ね。色々あったわ」
「そうですね…」
少し黄ばんだ似顔絵に視線を向け、月日の流れを実感する。

「考えてみると、僕らはどんどん、大きくなりましたね。身長など体のことだけでなく」
「友達との関係も大変だし、勉強は難しくなるし…ね」
「ですが、その分得る知識もとても多いですし、視野も広がりました」
「でも…」

それなのに、目の前の道は狭くなっていく。
視野が広がるほど、道の狭さがわかり、足は進むのを躊躇ってしまう。
戻る道はないのに。

「あーあ。年なんかとりたくないなあ」
冗談っぽい言い方で、されど悲しそうな目。
そんなミミの姿に、光子郎の表情が少し変化した。

「…どうして、そう思うんですか?」
「だって、着られる服は減る一方なのに、皺は増える一方になるんだし。
色々忙しくもなるし、それなら今のままがいいなーって」
「そうですか…でも」
ミミの自棄混じりの演説に、光子郎は重いトーンで口を出した。

「ミミさんには、そう言ってほしくなかったですね」

「…どうして?」
「だってミミさんは、純真の紋章の持ち主じゃないですか」

『純真』

「確かに、ミミさんのような意見を持つ人は多いと思います。
ですが、幾つになっても楽しさはありますし、成長もあります。
そして、どんなに大人になっても、子供の頃の無邪気さは」
「忘れない」

忘れちゃいけないし、忘れられない。
毎日毎日、「こんな事があったんだよ」と笑顔で話す、子供心。
毎日毎日を、目一杯楽しんで。目一杯、吸収して。
精一杯はしゃいでいた、あの頃、あの心。

「そうよね。私が純真をなくしちゃ、いけないわよね」
危うく輝きが消えるところだったかも、とミミは思った。
純真な子供は、年をとりたがるものだから。
どんな道も進んで、どんな時も進んで、たとえ汚れても、そのまま歩き、冒険する。
何歳になっても、そんな気持ちを消さずに、
「年齢をごまかしたくない」そう思えるような、過去を誇れる日々を送ろう。

「あ、ミミさん。作業終わりました。すぐ出られますよ」
パソコンと向き合いながら、光子郎は言った。
そんな姿を見て、
「…変わらない部分って、あるわよねー…」
ミミは思わず呟いた。

「何か言いましたか?」
「ううん、なんでもない。いいからとっとと行きましょー♪」
言うが早いか、ミミは部屋を飛び出した。

「おじゃましましたー」
靴を履くと、大声で言いながら走り出す。
後ろから、光子郎が慌てて追いかけてくるのがわかり、ミミはさらにスピードを上げた。

「ん〜気持ちいい〜」
寒さなんてどこ吹く風。子供は風の子とはよく言ったものである。

「ミミさん、速いですね」
追いついた光子郎が併走してきた。
「負けないわよー」
笑顔で言うと同時に、視界の端に待ち合わせ場所が見えてくる。

「あ、もうみんな来てますかね…」
光子郎が「しまった」という顔をした。
「じゃあ、早く行きましょ」
「はい…って、ミミさん!?」
ミミは急に道を逸れ、斜め方向に走りだした。

「こっちにいた時によく通ったのよね〜」
地元の子供しか知らない、ショートカット。
小学生時代に、誰もが自分だけの道を探し、探検した。
それは年を重ねてもきっと、なくならない。
きっと、似たようなことが出来るに違いない。

知識は尽きないから。追い求める心を忘れずに。
純真な気持ちを持って。永遠にはしゃぐんだ。

「お、ミミちゃん。光子郎」
柵の向こうから、仲間達がミミと光子郎に気付く。
「すみません、お待たせして…」
「今行きまーす!」

ミミは、「チカミチ♪」と小さな声で言うと、ブーツで地面を蹴り、
無邪気なままの笑顔で、柵を飛び越えた。

「お誕生日、おめでとう!!」





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改めて、ヒナちゃん、お誕生日おめでとう!!
こんなプレゼントですが、よければもらってやってくださいな(^^)

今回はミミちゃんと光子郎くんメイン。あくまで友達って事でお願いします。(何)
作中の似顔絵、ネタ元はヒナちゃんがくれたキリイラの光ミミ絵だったり。
見た瞬間からイメージが沸いてたんだけど、なかなか形にならなかった;;
それと、今回は特に季節決めてなかったり。
誕生日を誰かってのも同じく。…ヒカリちゃんかなーって思うけど。
特定しちゃうと12月16日になっちゃうから、敢えてナシにしてみました。(笑)
それでは、ぐっだぐだな文章でしたが、自己満足プレゼントです♪
またこれからもよろしくねー!!
じゃ、バイビー★

作成日:2008/2/7
掲載日:2019/4/6