仮面の笑顔とは、なにかが違う、独自の笑顔。

冷え切った笑顔は、偽のあたたかみを見せている──。



『ため息』



心の奥は、いつでも真っ暗で。

自分が明るさの象徴を持つ者とは、到底思えない。

いつでもどこか空っぽで。

でもたまに、全てを忘れて楽しくて。

ただ、永遠には続かない。



「タケル君」

声に気づいて顔を上げれば、そこには心配そうな顔がいて。

「帰らないの?」

放課後の教室。奇妙な夕焼けに染まる部屋に、ただ1人座っている、僕。

「なんとなくね…」

帰らないわけにはいかないんだけど。と小声で言いいながら、また少し笑みを作る。

人は、笑顔につられて、笑うから。

でも、今日の君はそうじゃない。

笑う動作を微塵も見せず、俯きながら、隣の席の机にしまわれた椅子に、寄りかかった。


そのまま、時間が過ぎていく。

お互いに、なにを言うわけでもなく、なんとなく、そのままそばにいる。

離れたくないのか、体は動かない。

どうすればいいのだろう。


少しして、ヒカリちゃんの手が、背もたれを掴んだ。

震える手。

べつに、実際に震えているわけではないのだけれど、僕にはそう見える。そう感じる。

僕はその手に自分の手を重ねた。

冷たい手。

もともと、低体温な人だからってのもある。でも、それとは違う冷たさ。

僕と同じ、冷たさ。


重ねている間に、だんだんと手があたたかくなっていく。

鼓動は早く、でも不思議な安心感。

そんな矛盾は、出会った時から変わらない。



どのくらい時間が過ぎたのかはわからないし、理由は上手く言えないけれど、

やっと、心が落ち着いた。

「帰ろうか」

僕がそう言うと、ヒカリちゃんは顔をこちらに向け、

「うん」

と、儚げな笑顔で言った。

つられて僕も、同じような笑顔になった。


こんな僕らの笑顔は、なんの影もないいつもの笑顔なんかより、

心の底から出る、笑顔だった。

楽しいとか、嬉しいとかじゃなくて、

安らぎ、というものがくれる、

自然な、笑み。

それが、他の誰でもない、今一緒にいる人にだけ見せる、

僕らの本当の笑顔なんだと思う。





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お待たせ致しました。水穂波紀様リクエストの「タケヒカ」です。
甘くてもシリアスでもなんでも良い、とのことでしたので、ここはシリアスに。(笑)
当初の予定とはまたべつに、がががっと書いてしまいました。
なんだかヘンテコな独白ですみません…;
しかも、確かキリリクも含めて下さったんですよね…ああそれなのにこんな駄文短文…。
ちなみに、タイトルの「ため息」は、ホッとする、という意味と悩んでる時のため息と両方の感じで。
では、「8/1〜計画」第4号の水穂波紀様に、これを捧げます。
リクエスト、ありがとうございました!!!

作成・掲載日:2006/11/13