「…やっぱり、ぼくがちゃんと説得できてたら…」

両親不在の休みの日。

静かなリビングで、俺はアグモンと話していた。

「アグモンだけの所為じゃない」

「でも…」

話が、暗い。そんなことはわかってる。

ただ、明るい方向に持っていくということが、今の俺には、出来ない。

「ねえ太一…ぼく、なんて言えばよかったのかなあ?

なんて言えば、ブラックウォーグレイモンは、わかってくれたかのな?」


ブラックウォーグレイモン。

あいつは、自分の存在というものを、考えていた。

存在意義。

言われてみると、答えられない。

必死に生きてみればわかる。

きっと大切なものがわかる。

でも、大切なものを手放すことになったら。

そもそも、大切なものというのは、どういうものなのだろうか。


「なにしてるの?」

ヒカリが、部屋から出てきた。

「なんか暗い雰囲気」

そう言いながら、手に持っていた鞄を椅子に置き、上着を羽織る。

「どこ行くんだ?」

「タケル君の家」

「そうか…あまり遅くなるなよ」

「うん」

あまりにさらっと答えられて、あまりにも当たり前で。

そんな普通の日々が、やたらと懐かしく感じる。

「ねえ、ヒカリはどう思う?」

「なにが?」

「簡単に言うと、自分の存在意義」

アグモンの質問に俺は横やりを入れた。

今から出かけようというときに、長々と説明してほしくはないだろうと思ったからだ。

ヒカリは少し考えてから、笑顔になって言った。

「大切にされてるとき、かな」

「どういう意味?」

「助けてくれたり、大事に想ってくれたり。そんな時、自分のいる意味が分かる気がするの」

誰かといるときに、自分がそこにいることがわかる。

ヒカリは、そう言っている。

単純、明快。


「じゃあ、行くね」

「おお。楽しんでこいよ」

「は〜い。いってきまーす」

小走りで、でも焦っているというより、嬉しいという気持ちが溢れているヒカリ。

前向きで、元気な証拠。

「引き止めちゃって、悪かったかなあ?」

ヒカリがもう行ってから、アグモンが言った。

「帰ってきてから謝りゃいいさ」

「…太一、元気になったね」

「え?」

突然の言葉に、一瞬困惑する。

「ううん。なんでもない」

とにかくよかった、という表情。

「なんだよ、教えろよ」

その表情が、なんとも言えない気持ちにさせる。

きっと、誰かに思われているときの、照れだな。


大切なものってのは、手放したと思っても、絶対そこにある。

全てを手放すなんて、できっこねえんだ。


「あのさあ太一」

「ん?」

「結局、ぼくはなんて言えばよかったのかな?」

「それはブラックウォーグレイモンに聞いてくれ」

いくら考えても、他人の気持ちはわからない。だから、面白いんだ。

なにがどうなるかなんて、わかっていたら悩まない。

「でも…さっきヒカリが言ったこと、教えてあげたかった」

「誰かと一緒にいるのが、存在意義って事か?」

「そう。だって、仲間がいれば、きっとわかってくれたと思う…」

「たしかに、そうかもしれねえけど…」

ただ1つだけ、心に思っていたこと。

「あいつはもう、わかってたんじゃないか?」

みんな、心の隅で、わかっていたんだ。

「なにを?」

「アグモン。ブラックウォーグレイモンは、仲間か?」

「うん」

「それだけで、充分だろ」

たぶん、あいつを受け入れないやつはいない。

「そっか…なんかわかった気がする。あ、そうだ。テイルモンにも聞いてみようかな」

「ああ。そうだな」

みんな、アグモンの望んでる答えを言うはずだ。

早速ヒカリの部屋に向かうアグモンに、俺は一言言った。

「ノックは忘れるなよ」

「わかってるー」


1人になったリビング。

結局、この数分でなにがわかったのか、よくはわからなかった。

ただ、とにかくなにかがわかった。なにかがかわった。そんな気がする。

ゴミ袋になっているスーパーの袋も、メモを書かれているチラシの裏も、

貧乏くさいとかじゃない。合理的、とかでもない。

なんてったっけこういうの…あれか?『捨てる神あれば拾う神あり』

たぶん、俺達も同じだ。

人間関係に悩んで、諦めてなにかを捨てようとしても、

誰かがそれをやめさせる。誰かが気付かせてくれる。

『捨てちゃダメ』

とか言ってな。


色々考えて、俺には珍しいほど悩んだ。

少し風にでも当たろうかと思い、ベランダに出た。


風に当たって目を瞑れば、そこにはヒカリに言われて気付いたものが映る。

声。

命。

闇。

力。


愛情。



光。



希望。


そんな、大切なものたち。

自分を支えている、みんな。そして、自分自身。

どんな時でもそれを見失わない。目を逸らさない。

生きるという冒険に必要なもの。

勇気に変わる、大切なものたち。


目を開けて下を見れば、遠くに地面が見える。

でもそんなことは気にしない。下ばっか向いてないで、前を向く。

向いて気付いた、青空。こんなに天気がいいとは気付かなかった。


なあ、アグモン。知ってるか?

曇りでも、雲の上には青空があるんだぞ。


空は、晴れるためにあるんだ。





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どうも!お待たせ過ぎました大遅刻です…;「BWGとアグモンと八神兄妹」です。
なんか、リクに沿ってない気がします…すみません。
その、リアルタイムの記憶は薄れませんが、レンタルで見た記憶って薄れるの早いんですね。
…BWグレイモン、またしても記憶より消えてしまいましたあ!!(爆)
ごめんなさい…セリフやストーリーに無理があるかも知れません…。
一応、検索はしたんですけどね、02感想。ことごとくアグモンとBWGの会話はありませんでした…;

さて、ここからは書き手の脳内のみに絶対とどまりそうな裏設定を。(笑)
太一は空のこと考えていたんです。空がヤマトと付き合うことを。
大切な人が離れていく感じ…つまりはまあ、○恋ってわけです。(矢に似た漢字を入れて下さい/何)
私的には、太一は告白したと思うんですよね。勇気の紋章の持ち主ですし。
だからこそ、余計に辛いんだあ…。去年までは太空派だったから…。(ヤマ空派になったのは、逃げもあったんじゃないかと)
でも、公式を重んじる私としては、どんなに辛くともキャラの気持ちを汲み取りたいです。とか偉そうな事言ってみる。(笑)
それでは、なんか長くなりましたあとがきでした。
詰め込んで破裂した旅行鞄みたいな(何その例え)作品で申し訳ありませんでした。
では、「8/1〜計画」第3号の時原大和様に、これを捧げます。
リクエスト、ありがとうございました!!!

作成・掲載日:2006/11/12