暗くなりつつある放課後の学校。
この日のヒカリは、日直だったタケルを昇降口で待っていた。

ただ、その顔は浮かなく、暗い雰囲気を身に纏っていた。


『世界で1番・・』


開いた窓から、楽しそうな声が、静かな校庭に響いた。
タケルと、もう1人の日直の声。

「(楽しそうだなあ…)」
日直の仕事なんて面倒くさくて、適当に終わらせる生徒も多い。
それなのに、タケルと組んだ女の子は、いつでも誰でも嬉しそうで。

「タケルくん、人気あるもんね…」
ぽつりと、誰に言うわけでもなく、呟く。

告白してくる子は、1ヶ月に1人は下らない。
同い年だけでなく、低学年の子や、時には中学生の人も来る。
もちろん、いずれも成功例はないが、それでも後を絶たなかった。

その理由の1つに、タケルの優しさが災いしていた。
毎回、どんなにタイミングの悪い告白でも、全く知らない相手でも、タケルはそれなりの誠意を持って対応していた。
それも、その人にとっての最良の言葉を選ぶため、「たとえふられても自分の為だけの言葉をくれる」と噂になり、
女子によっては、勇気と希望を与える結果になっていた。

1度ひどくふられた人でも出れば、他の人も諦めるかも知れないのに。
いつからか、女子の中でタケルの話題が上がるたびに、ヒカリはそう思うようになっていた。

この日も、「タケルくんと食べ物の好みが1つ同じだった」とか、「文房具あげちゃった」とか、
果てには「トレカをもらった」と大喜びしているクラスメートもいた。

ヒカリは表では普通に聞いている顔をしても、
心の中で「私は、食べ物以外の好みも一緒よ」「物をあげたりもらったりするのも、1回や2回じゃないもの」と、
無意識のうちに対抗心を燃やしていた。

「(…このままだと、どんどん嫌な子になりそう…)」
約束してもないのに待っているのは、暗くなった時間にタケルが女の子を1人で帰すとは到底思えず、
きっと家まで送ってもらえるだろう日直の子への、嫉妬心から来た行動だった。

「ヒカリちゃん」
やっと、タケルが出てきた。
もちろん、女の子の方も、一緒に。

「待っててくれたんだ。ありがとう」
驚きつつも嬉しそうに笑った顔を見てヒカリは、ほっとすると同時に嫉妬心が恥ずかしくなった。

「…どうかした?」
見た目何も変わってないように見えても、すぐにヒカリの心情に変化があったことに気付き、タケルは疑問を投げかける。

「ううん、なんでもない。じゃあ、帰ろうか」
最初の内は、顔に出たかな?と思っていたヒカリだが、どうやらタケルの瞳は、表情を通さなくても気持ちの変化がわかるらしい。

しかし、具体的に何から何に変化したのかがわからないという、欠点があった。

「あ、今日はちょっと遠回りするけど、いい?」
疑問の表情…とタケルは読んだが、実際のヒカリの表情は、不安が的中したという思いから来ていた。

「なるべく2人以上で帰りなさいって、先生に言われちゃって。一緒に帰ることになったんだ」
タケルは、日直の子を見ながら言った。当然事実の話だが、今のヒカリには言い訳にも聞こえそうだった。
まっすぐタケルを見ることがなんとなく出来ず、視線を逸らしたら日直の子と目が合った。

「ごめんね、ヒカリちゃん」
目が合うとすぐ、女の子は謝った。
しかし、照れ笑いのような、嬉しさが滲み出ている顔だった。

ヒカリの中で、何かが線を越えた。

「…じゃあ、私帰るね。用事あるし」
「え?」
「さよなら」

言うが早いか、ヒカリは走り出した。

とにかくその場に居たくなくて、全速力で校門を抜けた。
が、道に出た瞬間、手を引っ張られ、そのまま、胸に押しつけられた。

「ごめん、ヒカリちゃん。…行かないで」

抱きしめられていて、逃げられない。
それでもヒカリは、力を込めてその腕を振り解こうとした。

「離して」
「嫌だ…。なんでそんなこと言うの」
「タケルくんの所為よ!」

ヒカリには珍しい大声だった。
一瞬その大きさと内容に怯んだタケルだったが、逃がすほどの時間は与えなかった。

「ごめん…僕、何を…?」
「わからないの?他の子を家まで送ろうとしてたのに?」
「だからそれは、危険防止の為にって先生に言われて」
「言われてなくてもそうするくせに」
わざわざ送ったりはしないよ、というタケルの反論を、ヒカリは聞き入れなかった。

「なんでそんなに僕があの子を送るって思うの?」
「だってタケルくん、優しいもの。暗い時間に女の子の1人歩きなんかさせないじゃない」
「それはヒカリちゃんだけだよ! 気をつけてとは言うけど、送ったりなんかしないよ」
ヒカリちゃんだけ、という言葉に若干心が揺れるものの、まだヒカリの心は晴れなかった。

「そんなの信じられないよ。告白してくる女の子に、いちいち優しくする人の言葉なんか…」
「そんな…仕方ないじゃないか…。酷いことなんか、言いたくないし…」
「そこが優しすぎるのよ!おかげで告白してくる子、増える一方じゃない」
そんなこと言われても、と困るタケルをよそに、ヒカリは自分の気持ちも考えてほしいと訴えたかった。

「…別に、タケルくんが優しいのはいいんだよ…。人気があるのも、嬉しいことだし、だけど…」
「けど?」
「今日も、女の子達がタケルくんとの共通点見つけて喜んでたね」
言おうかとも迷ったが、はっきり言葉にするのに躊躇し、ひとまず遠回しに言った。

「そうなの?共通点くらい、偶然あってもおかしくないと思うけど」
「あと、文房具あげたって喜んでた人も」
「使うつもりはないよ。くれた人には、悪いけど」
ヒカリに気を遣うように、すぐに返事を返すタケル。多少焦っているようだ。

「トレカもらったって人も」
「前にくじ引きで当てたんだけど、集めてないやつだったから。弟が欲しがってるって聞いて」
「…ふーん」
「ヒカリちゃんにあげても、仕方ないでしょ…?」
明らかに拗ねているヒカリを前に、対処方法がいまいちわからずにいるタケル。
しかし、漸く1つの単語が頭に浮かんだ。

「あ…もしかしてヒカリちゃん、妬いてるの?」

ヒカリは、頷く代わりにタケルの服を掴んだ。
別に掴み合いの喧嘩をするつもりはない手だが、明らかに失言だった、とタケルは思った。

「いや、ごめん」
「私、最近いっつも気になるの。タケルくんに近づく人はもちろん、タケルくんのこと話してるだけで」
謝罪が聞こえたのか否か、ヒカリは俯きながら話し出した。

「どんどん嫌な子になってくの。タケルくんの周りには、素直な子いっぱい居るのに…。
だんだん、タケルくんのことも疑いそうで、このままだと私じゃない方がいいのかな、って思うようになったりして」
「そんなことないよ!」
やっと、ヒカリの態度の理由がわかり、タケルはより一層抱きしめる力を強めた。

「そんなことない…。僕には、ヒカリちゃんが必要なんだから…。
他の誰でもないし、もしヒカリちゃんが気に入らないとこがあるって言うんなら、色々と、直してみるから。努力するから。
だって、ヒカリちゃんが居なくなったら、僕、どうなるかわからない…」
1度近づいた人は、少し離れるだけで、もう気持ちを交えることが出来ないくらい、遠くに行った気がするから。
ヒカリが顔を上げたとき、タケルはそんな悲しい表情をしていた。

「だから、そんなこともう、言わないで。僕にはヒカリちゃん以外いないから。
希望の光、なんて言われるほど、きっと、生まれたときからそうだったから。
僕とよく似てて、守りたくて。そんな人、他にいないから」

「そんなこと、世界で1番わかってるの、ヒカリでしょ‥?」

「うん…本当は、全部わかってた」
タケルの言葉から数秒挟み、ヒカリは気付かないふりをしていた気持ちを、認めた。

「タケルくんは悪くない。私が妬いてただけなんだよね。人気があって、いつも近くには誰か女の子がいて、みんなに注目されてて…」
「ううん。それは改善しようと思えば、出来ることだよ」
声の響きが少し明るくなったタケルに、ヒカリの心は、つられて明るく変化していった。

「どうやって?」
「たとえば、いつもヒカリちゃんと一緒にいるとか」
徐々に普段の調子に戻っているのか、さらりと言ってのけた。

「まあ、今でも近くにはいるけど、もっともっと、仲良くしよう」
「うん。そうだね」
対するヒカリも、恥ずかしがる素振りも見せず、嬉しそうに笑った。

「それに、ヒカリちゃんさえよければ、もし今後も僕に好意を抱いてくれる人が現れたら、ちゃんと言うよ。
『僕にはヒカリちゃんがいるから』って」

「ありがとう」
にっこりと笑顔で、ヒカリは答えた。

「それじゃ、帰ろうか」
「うん」
短い帰り道を、2人は手を繋ぎながら、ゆっくりと歩き始めた。

未来へ続く道も、また1歩、2人で大きく進んでいた。





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遅くなりましてすみませんです! 20000番リクの「タケヒカでヤキモチ話」です。
ヤキモチ、なんだかタケルくんが女たらしになりそうで困りました。(ぇ)
しかも、タケルがヒカリ以外の子と一緒にいるとか、なんか想像したくないという…って、何私が妬いてんだ。(笑)
そして、今回唯一のゲストキャラ、日直の子。(名前くらい付けてあげた方がわかりやすかったのかも;;)
実はラスト付近の様子を見ていて、落ち込んでいるところを先生に発見され、送ってもらったという余談付き。(1人で帰したんじゃ可哀想なので一応…)
で、次の日はその子を中心に噂が広まりましたとさ。(元々タケヒカの噂はあったでしょうが/ここは1つ本人達は気付いてない鈍感ぶりで)
と、なにやらテンション高めのあとがきです。(^^;)
そうそう。ちなみにですが、作中の「食べ物の好み〜」などの女子の話題は、実際に私が小6の頃にあった話題です。
人気な子がいまして。。自慢大会みたいになってたなあ、と。(たしか)
それでは、細かくリクエストして下さったのに沿っているか微妙ですが、 20000番ゲッターの佐倉流梨様にこれを捧げ致します。
リクエストありがとうございました!!!

作成・掲載日:2007/08/9