「ったく、よく食うなあ〜」

時は放課後。
いつものように、パソコンルームより異世界救出活動に赴こうとしていた。
…もっとも、今は前段階の食事中だが。

「まあ、腹が減っては戦は出来ぬって、言うからね」

子供たちが何を言おうが、一心不乱に食事中のデジモンたち。
そして同時に、この時間は子供たち同士の貴重な会話時間でもある。

「今日の予定はもう立てたし、私たちもおやつにしよっか?」
「ダメですよ、京さん。放課後とはいえ、ここは学校です」

提案した途端に、即反対をするは伊織。
感覚が麻痺してきた子供たちを抑える役目でも、あったりなかったりする。

「いいじゃないの。元々持ち込んじゃってるんだし」
「ですが!出来るだけ違反しないで過ごすのが規則です」

…なかったりする、というのも、本来の伊織ならD−3やデジモンすら校内に入れようとしないからである。
が、さすがに冒険が当たり前になり、小さなことは気にならなくなってしまったようだ。

「あっははは…。伊織くんは厳しいなあ」

笑い事じゃありません、といった顔でタケルを強い目で見る様子から察するに、
根本的にはこの性格は治らないようだが。

「じゃあ、今度みんなで遊びましょ?お菓子持ち寄って」

そして、そこから発展するのが、時間があり遊びが仕事である子供たちの会話。

「ヒカリちゃんそれ賛成ー!!!」

お菓子・ヒカリ、と好きなものが並んだため、即賛成の大輔。

「僕も賛成。伊織くんは?」

そして、タケルもすぐに加わり、周りの意見を募る。

「はい。日程さえ合えば大丈夫です」
「私も賛成ー!!」

全員一致で、賛成。小学生らしく、ほのぼのしい光景である。

「みんな賛成って事は、具体的に決めないとね」
「私は、今週の土曜日空いてますよ」

まずは日時。何をするかより先に、これを決めなければ話にならない。

「あ、俺も俺も!土曜日さんせーい!」

何か姉に関係する用事があったような気もするが、ヒカリの言ったことには、基本即賛成だったりする。
…それが良いか悪いか本人は気付かないようだが。

「私も、ビンゴ!何もなくてヒマだったんだ〜」
家の手伝いなどが書かれた手帳を開き、確認がとれたので手を打って喜ぶ京。

「あの、僕はその日、夕方から剣道の練習が…」
そして、1人だけ多少の予定が入っている伊織。

「じゃあ、それまでの息抜きに、ね?」
しかし、ほぼ間髪を入れずに、タケルが前向きな考えを入れる。

「えっと…そうですね」
普段は固くてもまだ小学3年生。実のところは遊びに参加したかったのか、あっさりと賛成をした。

「タケルくんも大丈夫?」
「うん。空いてるよ」
「それじゃあ、今週の土曜日に!」

楽しみだな〜♪と、日にちも決まり、時間は前日にでも決めようということになった。
…忘れてしまっても大変だし、その方がちゃんと確認もとれるからである。

「じゃあ…場所はどこにする?」
実は、これが最大の問題だった。

大輔は考えた。自分の部屋を綺麗にして、ヒカリに好印象を与えることを。
まあ、実際問題、綺麗にするには土曜日までに間に合うとは到底思えないのだが、そこは気合いでなんとかするとして。

「あ、じゃあ俺んち「僕の家なら空いてるよ。その日、お母さん帰り遅いし」
言葉を遮られたというのか、被ったというのか。

当然イラっと来た大輔は、反論に出ようとするが、
「タケルくんの家か〜。良いの?」
ヒカリの方が一足早かった。…残念大輔。

「うん。何もないけどね」
タケル本人はといえば、特に何かを気にすることもなく、苦笑いして言った。

「何にもないって、ゲームひとっつもないの?」
遊びに行く、というのに何もないと言われ、思わず聞き返す京。
そして、大輔はチャンスとばかりにアピールするが…。

「あ、俺んちなら、ゲームとかある「ゲームならタケルくんの家あったよね?」
またもや、最後まで言い切れず。しかも今度はヒカリに。…残念大輔。

「でも、引っ越しの時に使わないのはあげたりしちゃったから、今はほんと少しだよ」
そして、またしても何事もなかったかのように――いや、むしろ2人にとってはいつものことなのかも知れないが――話を進めていく。

「そっか〜。タケルくん、強かったのにね。あたし1回も勝てなかったもん」
「そりゃあ持ち主だからね。バスケ始める前はヒマでよくやってたし」
上手くもなるよ、と、笑いながら言う。しかし。

「でも、うちに遊びに来たときも、お兄ちゃんに勝ってたじゃない」
ヒカリの反論。ヒカリの家にあるゲームでも勝ったのを思い出したらしい。

「え!?太一さんに…」
自分の憧れの人に勝った、というのはただでさえ良いものではないが、
相手が気にくわない相手であるが故に、ショックも大きい。

「そう。たしか、みんなが集まったときに、全員参加でゲームしたのよね」
「そうそう。お菓子を景品にして。盛り上がったなー」

どうやら、以前に選ばれしの仲間たちで集まったときにやったらしい。
新メンバーたちは、その盛り上がりを想像し、興味が湧いてきた。

「なら、またやらない?今度はこのメンバーで」
「ビンゴ!」
ちょうど想像をして楽しそうだと思っていたのか、京は嬉しそうに賛成した。

「よし!タケル、俺はぜってぇ負けねえからな!!」
せっかく自分の得意フィールドである。積年の恨み晴らしたり、とは言わないが、タケルには勝ちたかった。
いや、何に対しても基本そうなのだが。

そんな様子を、1人賛成出来ずにいる人がいることに気付かず、盛り上がるメンバーたち。

「じゃあじゃあ、罰ゲームとかもアリで!」
そして、京が提案した瞬間、タケルとヒカリは何かを思い出したかのように顔を見合わせ、笑い出した。

「な、なんだ?」
当然、大輔たちには意味がわからない。

「それが、前回も罰ゲームあってさ。別に意図的に用意したわけじゃなかったんだけど」
「そうそう。偶然、ミミさんが作ったお菓子が最後まで残って、最下位の人が食べたの。…すごかったよね」

なんとなく、なんとなくだが、皆『ミミのお菓子を誰が食べるか』の争いから、このゲームは始まった気がした。
…おそらく、当のミミはそれを別の意味で受け取ったのだろうが。

「でも、今回はどうしようか?」
「うーん…。京さん、なにか面白いお菓子ありますか?」
「え?そうねー……。…あ!あったあった!」
少し考えた後、京は店のお菓子コーナーによく残っているお菓子を思い出した。

「本当ですか?じゃあ、それでお願いします」
「OKー!きゃー楽しみになってきた♪」
「なんだよ、いったいどんなやつなんだ?」
「当日までナイショよ〜」
いったいどれほど不味いお菓子なのか。それは当日までの間、京のみぞ知ることであった。

「楽しみだね、タケルくん」
「そうだね。まあ、前回に勝ものはなかなかないと思うけど」
それはどういう意味ですか。と、2人の会話が聞こえた伊織は思った。
まあ、この手のことは、タケルにはよくあることだったりもする。
悪気はないのだろうが…。

「ところで伊織くん。さっきから黙ってるけど、何か腑に落ちないことあったかな?」
「あ、いえ。大丈夫です。ただ…」
一瞬、声をかけられてなぜか驚いてしまったが、聞かれたことに素直に答えた。

「僕、テレビゲームはやったことがないので…」
「あ〜。なるほど」
わかった、という表情を、タケルを含め全員がした。
それは普段の伊織を見ていればわかるが、今時テレビゲームと呼ぶのを聞けば、誰もが思うだろう。

「じゃあ、伊織くんにはデジモンたちと一緒に、応援してもらいましょう」
「さっすがヒカリちゃん!やっさしー♪」
「それでいいかな?伊織くん。あ、お菓子はちゃんと用意するからね」

大輔、これは防がれずにすんだ。だが、いつも通りあまり眼中にないらしい。…残念大輔。

「はい。ありがとうございます」
「伊織が応援団長って感じ?うわー似合わなーい」

京の脳内には、学ランにハチマキ、といった出で立ちの伊織の姿が。
装い自体は似合わなくはないが、それは大声を上げる姿と言うより、受験勉強の姿と言った方がしっくり来る。

「え、団長なんですか?」
それを聞き、もし本当だったら少し困る、と伊織は思った。

「だって、デジモンたちってハマり役いないし。そういえば、前回はどうだったの?」
ふと思ったことを、口に出すのが京。
しかし、言ったときは気付かなくとも、直後には失言と思うこともしばしばあった。

「あ…。前回はデジモンたちいませんでしたから」
今回もその類の方で、京は「あ、しまった」という表情をした。
なんとなく、タケルの顔が、曇ったように見えたからである。

「そっか…そうだったね。ゴメン」
でも、素直に謝るのが、京の魅力でもあって。

「いえ、謝ることないですよ。ね、ヒカリちゃん」
「そうですよ。絶対また会えるって、信じてましたし」

タケルは、同じような想いをしたであろうヒカリにも同意を求め、
京を許す意味と共に、その時の想いを少し表した。

「それに、みんなで集まると、『いない』ってことが目に見えてしまいますけど、その分だけ、またきっとみんなに会えるって思えて」
「普段は会えないタケルくんもいたし、たとえ遠く離れていても、忘れなければ、ずっと想っていればって、ね」
「望んでいれば、きっと、絶対に、叶うからね」

先駆者である、2人だけの空気。
経験が教室の雰囲気を包み、新たなる子供たちの隠れた不安に、僅かながら、希望の光が射し込んだ。


「ヒカリ。準備出来たわよ」
皆が皆個々の想いに耽っていた沈黙を、デジモンたちの代表であるテイルモンが破った。

「みんなも出来た?」
「うん!」
ご機嫌な様子で言いながら、パタモンは昔からの定位置である、タケルの頭の上に乗った。

「それじゃあ、京さん、いつものお願いします」
「よーし!!今日も元気に行くわよーー!!!」
不安が少し消えた所為か、いつも以上に大声で、しかも、偶然ではあるが大輔の隣で、京は言った。

「って、うっせえぞ京!いつもいつも、テンション高ぇんだよ。少しは落ち込んだりして静かになれよ!」
「なーによ!悩み1つなさそうなあんたに言われたくないわよ!」
「なにぉ!?俺だって悩みの1つや2つ…!!」
「まあまあ、落ち着いて」

やっと準備が出来たというのに、その勢いが言い争いの方に向いてしまった大輔と京。
そして、それをなんとか止めようとする伊織とデジモンたち。

タケルとヒカリは、さてどうしようか、とどちらともなく目で話しかけた。
…数秒後、2人は何かの意見が一致したらしく、パソコンへと向かった。

「そんなに言うなら言ってみなさいよ!!最近な・や・ん・だ・こーと!!」
「えっとだなあ…明日はあの漫画買うかそれともあっちの漫画買うかとか他にも」
「「デジタルゲートオープン!」」

「・・・え?」
全員がパソコンの方に目をやると、そこにはタケルとヒカリが同時に声を上げているところだった。

「「選ばれし子供たち、出動!」」

が、気付いた時は既に遅し。2人は光に吸い込まれて、デジタルワールドへと消えていった。

「あーー!!!ってめ、タケルー!!ぬけがけしやがってー!!」
「今日は気合い入れて言おうと思ってたのにー!!」
「お2人とも言いたいのなら、先にそう言ってくれれば良かったんですけどね」
「ダイスケ、今度おれも言いたい!」
「伊織も1度やってみたらどうだぎゃー?」
「あ、京しゃん、私も1度…」

結局、がやがやと集まった所為で誰もなかなか言えず、パソコンの前で渋滞中になっていた・・・。


「…みんな来ないね」
「勝手に来ちゃって、怒ってるんじゃないの?」
パタモンとテイルモンの言葉を聞いても、2人は妙に楽しくて仕方なかった。

「あはは。そうかもね」
「でも、なんか楽しいなあ」
3年前に戻ったみたいで。と、ヒカリは草に寝転んだ。

「そうだね」
タケルも、隣に寝転び、笑いあった。

そんな様子を見て、パートナーたちも嬉しくなり、2人の近くで無邪気に遊び始めた。

「みんなが来るまで、こうしてよっか」
「うん。お話ししながら、待ってようね」


この後、なぜかボロボロになってやってきた大輔たちに、色々言われたことは言うまでもなかったのだった。


・・・めでたし、めでたし。





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遅くなりまして本当に申し訳ないです!!!!!
12345番キリリクの「日常の中のタケヒカ」です。
公式のような日常って、なかなか難しいですね;;
02見直せば良かったのでしょうが、見ずに書いたために時期設定とか諸々あやふやですし;;
特別なテーマがあるわけでもないので、書いているといつの間にか非日常になってしまったり。
結局、今回は珍しく、「とりあえずデジモン達は食事中で、その時の会話」というところだけ決め、 キャラに任せちゃいました。(^^;)
台詞だけ箇条書きして、そのあとに補足的に文章を付けていったので、なんだか妙です;;
しかも、タイトルを入れるところがなかった所為で、あとになって無題な事に気付いたという…。
でも、何の変哲もない日常って、特にタイトル付けたりしないような気がしたので、会えて『無題』というタイトルになりました。(苦笑)
しかし、書き出し時からどうなるのかと思いましたが、日常なんだかなんなのか、遊びに行く約束になったり 、
具体的に設定がというか、なぜかミミさんが出てきたり、02序盤のため入れる予定だった賢ちゃんはナシになり、
大輔の扱いがあんなことになったり。…ごめん大輔;;
そして、最後はタケヒカシーンを特に入れるつもりはなかったのですが、 キャラに任せたらなぜかこういう形に。私の中のタケヒカキャラはなんなんだ。(笑)
というわけで、ツッコミどころ満載で申し訳ないのですが、12345番ゲッターのガルン様に捧げいたします。
リクエストありがとうございました!!!

作成・掲載日:2007/07/12