「…大丈夫?」
平日の昼。教室の窓辺で、タケルはヒカリに言った。


『現在心温40度超』


「え?何で?」
何のことを言っているのかわからない、という風なヒカリに、
タケルは厳しく返す。
「とぼけないで。風邪、引いてるんでしょ?」

「え?別に、風邪なんて大げさなものじゃないよ。」
心配してくれてありがとう、とヒカリはにっこりと笑った。

その笑顔を見ると、タケルはぼそっと呟いた。
「…嘘だ」
「え?」
ヒカリが聞き返したのとほぼ同時に、タケルはヒカリの手を握り、歩き 出した。

「…ちょ、ちょっと、タケル君?どこ行くの?」
昼休みのため、生徒はほとんど外ということもあり、
教室内にいる生徒全員がヒカリ達を見ていた。

「…いいから、来て」
タケルはそう言うと、目的地に着くまで、ヒカリが何を言っても、
一言も喋らなかった。


やがて、目的地に着いた。
そこは、清潔感あふれた部屋だった。──保健室である。

「寝てて」
タケルは、ヒカリをベッドに座らせると、短く、強く、そして優しく言 った。

ヒカリは、どうしようか考えた。
今朝から昼休みの今まで持ちこたえてきたのだから、
もう少し頑張ってみたかった。

「…大丈夫だよ。授業もあと少ししかないし」
「だからこそ、勉強に支障もでないでしょ?」
ヒカリは、言葉に詰まった。

確かに、タケルの言うことはもっともだ。
このまま授業に出ていても、頭に入らないかもしれない。

「先生には、僕から話すから。…だから、ヒカリちゃんはおとなしく 寝てて」
「…」
ヒカリは、渋々寝る体勢になった。

横になってみると、いかに体が重かったのか思い知らされた。
そして、睡魔が襲ってきた。

ヒカリが寝付くのに、そう時間はかからなかった。



「…ん…」
ヒカリが目を覚ますと、目隠しのカーテン越しではあるが、
部屋は夕焼け色に染まっていた。

「あ。…起きた?」
ヒカリが横を見ると、そこにはタケルの姿があった。
夕日色に染まる部屋で、本を持ち優しげな目でヒカリを見る姿は、
いくら見慣れてる人とはいえ、少々見とれてしまう。


「…大丈夫?」
タケルの質問に、我に返ったヒカリは、
「うん。少し良くなったみたい…」
と、上半身を起こして言った。

「よかった」
その様子を見てタケルは、少しほっとした。

「…あのさ、タケル君。…ごめんね」
ヒカリは、申し訳なさそうに顔をうつむけた。

「…僕の方こそ、ごめんね。強引に連れて来ちゃって」
タケルも、申し訳なさそうに、顔をうつむける。

「そんなことないよ。悪いのは私の方。…怒らせちゃったし」
「…それも、謝んないとね。勝手に怒ったりなんかして。 ヒカリちゃんは悪くないのに」
「…そんな、私が悪くないわけないでしょう?」
タケルの言葉に、ヒカリは微妙に笑いながら言う。

そんなヒカリに、タケルは顔を曇らせながら言った。
「…僕はね、僕に怒ってたんだ」
「……どういうこと?」
ヒカリは、首を傾げた。

「ヒカリちゃんが無理してるのに、何もできない僕に、腹が立ったから 」
タケルの答えに、ヒカリは反論した。

「それは違うよ。だってタケル君、私を保健室まで連れてきてくれたじ ゃない」
「…強引だったけどね」
そう言いながら苦笑いするタケルを無視するかのように、ヒカリは続け る。

「…それにタケル君、私が起きるの、待っててくれたんでしょ?」
ヒカリは、自分でそう言いながら、思った。
「…一体、どのくらい待ってたの?」

ヒカリの質問に、タケルは少し考えると、
「…そんなに長くはないと想うよ」
と答えた。

その答えを聞き、ヒカリは、おそらくはかなりいてくれたのだと思った 。
もし本当に長くなかったのなら、こうは言わない気がしたから。

「…タケル君。私はもう大丈夫だから、帰って良いよ」
「そんな。気なんか使わなくても良いよ。別に早く帰らなきゃいけない 用事もないし」
そう言いながら微笑むタケルを見て、ヒカリは言った。

「でもタケル君、風邪移っちゃうかもよ」
「大丈夫。僕、馬鹿だから風邪引かないよ」
即答したタケルの言葉に、思わずヒカリは吹き出す。

「そんな〜。タケル君が『馬鹿』なわけないよ〜」
そう言いながら笑うヒカリを見て、タケルは言った。

「…ヒカリちゃんが、僕を『馬鹿』にするんだよ」
「…え?」
ヒカリの笑いが止まった。
タケルの顔は、いつになく真剣になった。

「今日もそうだったけど、いつもね、僕の頭の中は、ヒカリちゃんでい っぱいなんだよ?
ヒカリちゃんは気付いてないかもしれないけど、いつも見てるんだよ。
笑ってるときも、悲しんでるときも、ずっと、いつも…」

タケルは、読んでいた本をヒカリに見せた。
「この本ね、ヒカリちゃんが起きるまで読んでようと思って図書室で借 りてきたんだけど、
始めの数行読んだだけで、全然頭に入らなかったんだ」

タケルは、本を置くと、ヒカリの方に向き直った。
「ヒカリちゃんの寝顔見てたらね、本なんて、読んでいられなかった。
ずっと見ていたかったんだ。ヒカリちゃんが、可愛かったから。
…それでね、これからもずっと、守りたいって想った。
ずっとずっとそばにいて、守りたい…。ヒカリちゃんを…」


「僕は、ヒカリちゃんのことが、愛おしいから…」


「…ヒカリちゃん、良いかなあ?これからもずっと、そばにいて守りた いって想っても。
僕だけのものになってほしいなって、想っても、良いかなあ?」


「…うん!」
ヒカリは、力一杯うなずいた。
満面の笑みに、うっすら涙を浮かべながら。

「……良いの?ほんとに、本当に、良いの?」
タケルは、にわかに信じがたい、といった顔で聞いた。

「…そのかわり、約束して」
ヒカリは、少しタケルに近づいて言った。

「…約束?」
タケルは、オウム返しに聞いた。


「タケル君は、私のだけのものだっていう、約束」


「…もちろんだよ…当たり前だよ…!!」
タケルは、顔中で笑った。
そして、目を潤ませながら、ヒカリの手を握り、小さく言った。

「…ありがとう」
そんなタケルの声を聞き、ヒカリも言った。

「私の方こそ、ありがとうだよ…」
「ヒカリちゃん…」

タケルは、自分の唇を、ヒカリの唇に押し当てた。

そしてそのまま、ヒカリを抱きしめた。

「ねえ、タケル君」
2人の唇が離れると、少ししてヒカリが言った。

「何?」
今だヒカリを抱きしめたままの体勢で、タケルは聞く。

「風邪、本当に移っちゃうよ」
ヒカリは、笑いながら言った。

「大丈夫。『馬鹿』だから。…もっとも、今はヒカリちゃんの風邪、も らいたいくらいだけどね」

「…どうして?」
「だって、ヒカリちゃんの風邪、早く治したいから。
…それで、もう2度と風邪なんか引かせない」

タケルの真剣な声に、ヒカリは笑って言った。
「風邪菌からも守ってくれるの?」

ヒカリの冗談っぽい言い方を聞いても、タケルは相変わらず真剣な顔で 答えた。


「…どんな小さな危険からも、守ってみせるよ」


「え?…ありがとう」
ヒカリは、冗談にしてしまってはいけないくらいの想いに気付き、
謝罪の気持ちも込めて感謝した。

そんなヒカリの言葉に、タケルは微笑みながら、言った。


「お礼はいらないよ。だって、ヒカリちゃんは──」


タケルは、言葉の続きを、ヒカリの耳元で言った。
…唇を付けるようにして。


「──僕だけの愛おしいものなんだから」




2人のこの高熱は、治まることはないのかも知れない…。





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99番のキリリク、「お任せ」です。…すみません。タケヒカですが、 いかがでしょうか?(笑)
せっかく2つ同時のキリだったので、106番の方とペアみたいにして みましたのですが…。
しかし、これ、甘いなあ。(笑)始めは心温39度だったんですが、あま りの甘さに40度超にしちゃいましたよ。(笑)
しかしほんと、すみません。「お任せ」とはいえ、ジャンル外というか 、タケヒカで…。(汗)
しかも、単にソマナズの書いたらタケヒカもこのテーマで書きたくなっ たから、なわけですし。(汗)ほんと、すみませんです。
それでは、の99番ゲッターの 伊勢史虎様に、これを捧げます。
リクエスト、ありがとうございました!!!

作成・掲載日:2006/03/25